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フランスサッカー界のVAR評。
「この胡散臭い技術はどこからだ?」

posted2020/04/01 11:30

 
フランスサッカー界のVAR評。「この胡散臭い技術はどこからだ?」<Number Web> photograph by L'Equipe

複数のカメラ、広い視野、スローモーション……あらゆる技術を持つはずなのにVARは問題を解決できていない。

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ジャンマリー・ラノエ

ジャンマリー・ラノエJean-Marie Lanoe

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L'Equipe

 2019年夏のフランス大会で、女子ワールドカップではじめてVARが導入された。筆者(田村)は、大会終盤に行われたセピエルルイジ・コリーナFIFA審判委員長の総括会見に出ようと、会見場へ向かうべく早朝にTGVに乗車したのだが……なぜか目的地を大きく外れ大西洋岸のブレストという街に着いてしまい、会見には間に合わなかった。

 伝え聞いたところによると、コリーナはVARについて改善の余地はあるとはいえほぼすべてに満足していたという。同じポジティブさは大会全体の総括会見におけるジャンニ・インファンティーノFIFA会長にもうかがえた。FIFAが鳴り物入りで導入した新テクノロジーを、自ら否定するような総括をするはずはないのだが、ネガティブ面も多く目についた筆者(田村)には、あまりに楽天的であるように映った。

 VARが判定の精度を高めたのは間違いない。それとともに解決されない問題、新たな問題が出現した。今季からJ1においてVARを導入された日本でも、そして世界的に見ても、それはおおむね不可逆的な進化の方向として捉えられているように思う。

 しかし、本当にそうであるのか……。

 VARの目指す方向にサッカーの進化はあるのか。『フランス・フットボール』誌は根本的な疑問を提示する。前提にあるのは人間性への回帰、人間のスポーツであるサッカーの根幹の部分を、テクノロジーに委ねることへの疑念である。AIがこれだけ進化し人間を凌駕するようになった今日、はたして囲碁や将棋やチェスを人間がプレーする意味がどこにあるのかという議論と通底する問題がそこにはある。

『フランス・フットボール』誌の答えが否定的であるのは、以下に掲載するジャンマリー・ラノエ記者のレポートを読んでいただければ明快である。それが正しいのか否か。読者の皆さんもじっくりと考えていただきたい。

監修:田村修一

「道具がレフリーを指導するように」

 昨季、リーグアンに導入されたビデオアシスタントレフリー(VAR)には、ここまでほとんど誰も満足していない。『フランス・フットボール』誌では、かつてのレフリーたちに、いったいどうすればVARを進化させることができるのかを聞き取り調査した。その答えは、穏便なものからラディカルなものまで多様であった。

 元国際主審のトニー・シャプロンは、現在はカナル・プリュス(フランスのテレビ局)の解説者を務めている。リーグで毎週のように論議の的となる判定を下すVARについて、彼は次のように語る。

「(VARの導入で)力関係が逆転してしまった。レフリーが道具を活用するのではなく、道具がレフリーを指導するようになってしまった」

【次ページ】 ビデオの介入する場面がどんどん増えている。

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セルジオ・コリーナ

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