マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
部活という日常を生きる高校生たち。
「野球がないと行くとこなくて」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/03/26 07:00
たかが部活、されど部活である。彼らはこの時間をどんな風に振り返るのだろうか。
他の学校の野球部員の視線を感じる。
ある部員が、こんな話をしてくれた。
「練習の行き帰りに、駅なんかで野球部バッグ抱えて歩いてると、あいつらも絶対“野球部”だな……っていう高校生が、私服でこっち見てたりするんですよ」
こんな時に練習なんかやりやがって、感染が広がったらどうするんだ。
最初は、そんな“非難”の目なのかと思ったという。
「だから最初は、目を合わせないようにしてたんですよ、なるべく。こっちが悪いことしてるような気分になって……」
部活がないと何をしたらいいかわからない。
ある日、その私服の集団の中に、中学時代のチームメイトを見つけた彼は、声をかけてみた。
「お前、練習できていいなって言われたんです。お前のほうが、練習なくて遊べて、いいじゃないかって言ったら、行くとこないっていうんです。やることないって。ほんとは“在宅”じゃないといけないんですけど、家にいると親がこっちに気を遣って、かえって居づらいって。
でも、オレたち、こういう時に何をしたらいいのかわからないって言うんです。ほんと、そうなんですよ、自分たち。野球しかやってきてないから、野球以外の世の中の知識が全然ないんですよ。だからそいつも、行くとこなくて、駅でウロウロしてるって」
自分たち、野球なかったらやることないんですよね。ギャグのつもりで笑って語った顔が、ちょっと悲しそうだった。
「普通に野球をしていることが、生きる喜びなんですですね、きっと。“分”ってやつですよね」
監督さんのつぶやきは、「非常時」にしかつぶやかれることのない金言のようにも聞こえた。