猛牛のささやきBACK NUMBER
オリックス宜保翔の活躍が「収穫」。
コーチも驚く打撃技術と素人っぽさ。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2020/03/21 09:00
オープン戦では7試合スタメン、全12試合に出場し、打率は.344。開幕一軍へ猛アピールした。
栽イズムを継ぐ神山監督の指導。
KBC学園未来高の神山昂監督は、かつて豊見城高や沖縄水産高で名将・栽弘義監督の元、コーチを務め、その後、監督として那覇商業高を甲子園出場に導いた。そうした豊富な経験に加え、「監督さんが一番勉強熱心で、どんどん新しいことを取り入れてくれた。あまり古い考えを言わない人」だと宜保は言う。質問すると、理論的にわかりやすくアドバイスしてくれた。
ただ、基本的には選手が自分たちで考え、のびのびプレーさせて長所を伸ばすという方針で、押し付けたり型にはめたりはしない。
宜保たちは、YouTubeなどでトレーニングの動画を見つけて、「これやってみよーぜ」と取り入れたり、打撃練習で飛距離を競い合ったりする中で、力を伸ばしていった。
「なんかわちゃわちゃやってて、楽しみながら、遊びの中で身につけるという感じでした。試合でも、ちょっとやんちゃっぽい野球というか、周りから『草野球みたい』って言われるような野球でした」と宜保は笑う。
それでも3年の春季大会では、興南や沖縄尚学、沖縄水産といった名門校を次々に破って初優勝を果たした。本来、宜保は遊撃手だったが、エースが怪我をしたため、この時は投手を務め、打っても4番としてチームを牽引した。春季九州大会でもベスト4に勝ち上がり、プロのスカウトから注目される存在になった。
そして2018年の秋、オリックスからドラフト5位で指名され、KBC学園未来高出身の初めてのプロ野球選手になった。
「体のコントロールのしかたがうまい」
プロ1年目だった昨年は、ウエスタン・リーグで開幕から先発起用され、チーム最多の417打席に立った。
ファームとはいえ、高卒1年目の選手を開幕から使い続けた理由を、昨季二軍内野守備走塁コーチを務めていた後藤光尊一軍打撃コーチはこう語る。
「身体能力の高さ、ですね。春のキャンプから、どんどんいいものが見えてきていた。肩が強いし、足も速いし、スイングが、他の高卒の選手とちょっと違う。高校は金属バットで、プロは木のバットになるんですが、そういうことを感じさせないほど、バットを扱うのがうまかった。バットだけじゃなく、体のコントロールのしかたがうまいんです」
宜保は高校時代、積極的に木製バットを使って練習していたわけではない。むしろ「手痛いし、飛ばんし、折れるし」と敬遠していた。それでも、プロに入って使い続けるうちに順応した。
一方で、エリート育ちではない故か、「ど素人みたいなところもある」と後藤コーチは苦笑する。