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田口良一が歩んだボクサー人生と縁。
王者への道と井上尚弥、田中恒成。 

text by

谷川良介

谷川良介Ryosuke Tanikawa

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2020/03/01 18:00

田口良一が歩んだボクサー人生と縁。王者への道と井上尚弥、田中恒成。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

昨年の12月10日、引退式の臨んだ田口良一。内山高志(右)や洪トレーナー(中央)ら、ジムでお世話になった人々が集い、笑顔があふれた。

全日本新人王、コーチとの別れ。

 寮では同門のメンバーとも切磋琢磨できた。金城智哉は日本ランク1位まで上り詰め、同期の佐藤洋輝は日本ランク2位、酸欠で倒れた時に寮まで担いでくれた麻生興一はのちの日本チャンピオンだ。隣の寮にいた元世界王者・内山高志の部屋にはよくゲームをしに遊びに行った。

 ボクシングは自分のためにやっている。だが見ている先は同じリングだ。階級こそ違えど、ともに目的地へ走る月日はチームを、人を一層太くする。2006年夏のプロデビューから約1年半後、全日本ライトフライ級新人王を獲得し、念願だったランカー入りを果たす。

「個人競技なのにチームみたいだった。寮生活の3年間ですべてを叩き込まれたし、みんな洪さんのために勝つと強烈に思っていた」

 順調に白星を重ねていた矢先、洪がジムを離れることになった。

「2009年8月1日の試合(対瀬川正義戦)。この月で洪さんが辞めることがわかっていたんですけど、負けてしまった。しかもプロ初黒星。そこで勝てば10連勝だった。何より洪さんに勝利を届けられなかったことが今でも心残りですね」

 泣きながら別れを惜しんだ洪は、もういない。それでも積み上げてきたものを、自分に賭けてくれた洪のためにも見せないといけない。奮起した田口はデビューから約7年経過した2013年4月、ついに日本チャンピオンになった。

怪物・井上との出会いにも逃げず。

 実はこの日本チャンピオンに輝く前、ある青年から挑戦状が届いていた。この出会いが田口のボクシング人生を加速させていく。

「実は2012年3月に黒田(雅之)くんに引き分けて日本チャンピオンになるチャンスを逃し、少しへこんでいたんです。当時もまだネガティブだったので。そのあとの5月ぐらいかな、井上(尚弥)くんからスパーリングのオファーがあった。井岡(一翔)くんや八重樫(東)さんともスパーリングしていましたし、それに自分は日本ランク1位ですから、いけるだろうと思っていたんですけど……」

 怪物は強かった。高校を卒業したばかりの青年に、2回のダウンを喫し、予定よりも早い3Rで中断。しかも周囲が見守る前でボコボコにされた。日本チャンピオンを逃した以上に、プライドを傷つけられた。

「悔しかった。でも、絶対に逃げられないなって」

 日本王者となった田口は最初の防衛戦の相手に井上を指名。会長に直訴したのだった。

【次ページ】 「負けたけどいい試合ができたんだな」

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