One story of the fieldBACK NUMBER
東京五輪がけっぷちの萩野公介が
惨敗と惜敗のあいだで見つけたもの。
posted2020/02/17 20:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Kyodo News
萩野公介の胸板はなぜあんなに赤く染まっているのだろう。まるでムチかなにかで打たれたような痕に見えるほど真っ赤になっている。泳ぎ終わって水から上がった彼を見るたびに、そんなことが気になった。
東京オリンピック最終選考である4月の日本選手権を前に、国内最後のレースである「コナミオープン2020」が、さきの週末、東京・江東区の辰巳国際水泳場で開催された。
模擬試験とも言うべきこの大会で幼い頃からライバルであり親友であるトップスイマー2人の明暗は残酷なほどに割れた。
すでに400m、200mの個人メドレーでオリンピック内定を勝ち取っている瀬戸大也は200m自由形、100m平泳ぎにエントリーし、泳ぐたびに自己記録を更新するという充実ぶりで専門外の2種目を制した。
五輪で4つのメダルを獲得した競泳界のスター。
オリンピック候補となる有力選手たちは泳ぐたびにメディアの前に呼ばれるのだが、堂々と報道陣の前に立った瀬戸の口調は滑らかだった。
「個人メドレーに良い影響が出る、すごく良いレースができました。この流れ、勢いのままで夏まで限界をつくらずに伸ばしていきたいです」
ミックスゾーンのすぐ上にある客席からは無数のスマホが彼に向けられている。パーンと筋肉が張った色白の胸板はつやつやと水をはじき、ほとんど赤くなっていない。
一方、400m、200m個人メドレーにエントリーした萩野は予選から明らかに苦しそうだった。自身が打ち立てた日本記録はレースのたびに電光掲示板に表示され、嫌でも目に入るだろうし、そこから4秒も5秒も遅いタイムを突きつけられるのだ。
それでも彼は泳ぐたびにメディアの前に立たなければならなかった。当然だろう。金、銀、銅2つ、オリンピックで4つのメダルを獲得している競泳界のスター、その現状には多くの視線が集まっているのだ。