One story of the fieldBACK NUMBER
東京五輪がけっぷちの萩野公介が
惨敗と惜敗のあいだで見つけたもの。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKyodo News
posted2020/02/17 20:00
胸板が赤く染まっていた萩野公介。4月の日本選手権では、最後の東京五輪代表選考が待っている。
サブプールで窓の外を眺め続けていた萩野。
初日の400m個人メドレー決勝。萩野は自己ベストから14秒以上も遅い4分20秒42というタイムで4位と惨敗した。
そして、その後、待ち受けていた報道陣の脇を無言で通り抜けていった。
“約束の場所”を素通りして彼が向かったのはウォーミングアップ用のサブプールだった。ジュニアから学生、社会人まであらゆるカテゴリーの選手が準備のために使うそのプールの脇、一番奥のベンチに腰を下ろすと、水とは反対側を向いて窓から外を眺めていた。
彼は何を思っていたのだろう。
上を見たり、うつむいたり、どれくらいの時間そうしていただろうか。
やがて代表チームの顔なじみと言葉をかわしたりして笑顔になると、1時間ほど遅れて約束の場所へとやってきた。
「人生を一歩一歩あゆんでいくんだと」
「適切な言葉が出てこないと思ったので。あのまま喋っていたら嘘を言ってしまいそうで、上辺だけのことを言ってもしかたがないと思ったので。すいませんでした」
彼はまず素通りしたことをそう謝罪した。
「格好悪いレースでした。悔しいし、情けないですけど、これが今の僕かな。練習はある程度ちゃんとやってきているんですが、泳ぐ前に怖くなってしまったというか、大丈夫か? と自分で自分の首を絞めていました。でも泳ぎ終わって考えて、結果を受け止めたいなと。人生かけてやっていく、人生を一歩一歩あゆんでいくんだと。それをどういうものにしていくかは自分次第ですから」
何かが吹っ切れたような表情での告白。
あの窓越しに外の景色を見つめながら、萩野は敗北を受け止めていたのだという。
あの時間は金メダリストがしっかりと敗者になるために必要な時間だったということか。