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テコンドー界に新風起こす鈴木兄弟。
兄はテクニシャン、弟はパワー型。
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byYohei Osada/AFLO SPORT
posted2020/02/14 07:00
兄弟そろって東京五輪出場を決めた鈴木セルヒオ(右)とリカルド。応援に駆け付けた両親に挟まれ、安堵の表情を見せた。
長男はボリビアで研修医。
現在、健二さんとノルマさんは妻の故郷であるボリビアに住み、日本料理屋を経営している。日本で生まれたセルヒオは5歳の時にかの地に移住した。格闘技を始めたきっかけは3歳上の長男・ブルーノさんが日本滞在時から空手をやっていたことがきっかけだったという。
「ボリビア第2の都市サンタクルスに住んでいたんですけど、いろいろな格闘技をやっているジムがあったんですよ。そこに兄と一緒に連れられて行った時にテコンドーをやってみたいと思いました」
ちなみにブルーノさんは現在ボリビアで研修医として活動中。近い将来、外科医として独立することが夢だ。一方、リカルドはボリビアで生まれ育った。現地でもセルヒオ&リカルド兄弟の活躍はニュースになっていると思い、健二さんに確認すると肩を落とした。
「いま、ボリビアは大変な状況が続いていますからね」
南米の中でボリビアは比較的治安のいい国として有名だが、昨年10月に実施された大統領選挙でモラレス大統領の再選が発表されるや、開票手続きに不正があったとして各地で抗議活動が激化した。同年11月、モラレス大統領は辞任を表明しメキシコに亡命してしまったので、政情が安定しているとはいいがたい。
ボリビアではチャンスがない。
ちなみにボリビアはブラジルの隣国ながら、2016年のリオデジャネイロ・オリンピックの時には12名しか参加していない。2012年のロンドン・オリンピックでの参加者は5名のみ。健二さんは「ボリビアではテコンドーもうまくいっていない」と言葉を続けた。
「そもそもオリンピックは記事になっていない。サッカー記事だけという感じです。でも、ボリビアでテコンドーを始めたふたりが、日本国籍ながらオリンピックに出るというニュースはかなり大きいと思いますね」
以前、取材した際、セルヒオは故郷のテコンドーについてこんなことを言っている。
「国からの支援もほぼないので、続けることが大変。世界選手権に出ようと思ったら実費になる。なかなかチャンスがないというのが実情です」
10歳からボリビアでテコンドーを始めたリカルドがセルヒオの背中を追うように、来日したのはお国の事情があったからだろう。
「2年前、ボリビアからやってきたばかりの頃から毎日一緒に練習してくれた。兄のおかげで強くなったといっても過言ではない」