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テコンドー界に新風起こす鈴木兄弟。
兄はテクニシャン、弟はパワー型。
posted2020/02/14 07:00
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Yohei Osada/AFLO SPORT
「待っているぞ」
2月9日、岐阜県羽島市で行なわれたテコンドーの「東京オリンピック日本代表最終選考会」は、開催国枠として認められている男女2階級の代表をひとりずつ決定する大会だった。
男子-58kg級決勝では鈴木セルヒオ(東京/東京書籍)が東島星夜(千葉/ヨンソンテコンドー)を僅差の判定で撃破。日本代表の座を射止めると、舞台の下で出番を待っていた男子-68kg級の決勝に臨む実弟の鈴木リカルド(東京/大東文化大)を勇気づけた。
「ほかにも何か言ったはずだけど、まだマウスピースをつけていたし、たぶん聞き取れなかったと思う。でも待っているぞと言ったことだけはハッキリと覚えています」
兄の激励を胸にリカルドは舞台に上がった。
「僕は何も返していないけど、兄の言葉を刺激にしました」
テコンドー界初となる兄弟で五輪。
リカルドと決勝を争ったのは濱田康弘(佐賀/ベンチャーバンクホールディングス)。この日最終試合で女子-57kg級の代表の座を勝ち取った濱田真由(ミキハウス)の実兄だ。鈴木兄弟や濱田兄弟を例に出すまでもなく、テコンドーでは第一線で活躍する兄弟が多い。
結局、リカルドは第2ラウンドまでの6ポイントを死守する形で、追い上げる康弘を1点差で振り切った。過去オリンピックの格闘競技における兄弟同時出場はアトランタ大会での中村3兄弟(柔道)、アテネ&北京大会での伊調姉妹(レスリング)など数例あるが、テコンドーでは史上初の快挙だった。
リカルドは興奮気味に激闘を振り返る。
「兄弟でこれ(東京オリンピック出場枠)を獲れたことはうれしい」
会場で妻ノルマさんとともにセルヒオとリカルドを応援していた父・鈴木健二さんは興奮気味に息子たちとの約束を打ち明けた。
「昨晩、ふたりとも優勝して兄弟でオリンピックに行こうと話し合っていたんですよ。夢みたいな話ですけど、みんなで決めたことなので、実現して本当に良かった」
親の複雑な気持ち。息子たちとの約束の成就を願う一方で、健二さんは妻に「たとえふたりとも出られなくても、東京オリンピックには来よう」という話もしていたという。