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空手・清水希容が2020初戦で敗北。
苦しむエースに、前エースの言葉。
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph byGetty Images
posted2020/02/01 19:00
採点競技では、ほかの選手よりも自分との戦いが結果に直結する。東京五輪までは、あと半年ある。
「自分に負けたなって思った試合」
翌日の3位決定戦で、清水は香港選手を下した。しかし、力強さやスピード、バランスを評価する競技点は同点。技術点でわずかに上回る辛勝だった。
今度は取材エリアでしっかりと対応し、まずは大会全体の総括を問われた。
「今回の負けは相手に負けたっていうよりも、やっぱり自分に負けたなって思った試合だったので……」
「自分に負けた」という言葉を、涙声で振り絞るように言った。
「日本代表として、日の丸を背負ってやっている中で勝てないのはすごく責任を感じていますし、自分が代表でいいのかなって思う時もやっぱりあったんですけど……。今回の負けが自分の気づきになったと思うので、しっかりと、もっと自分とちゃんと向き合ってやっていきたいなと思います。
もうこの舞台には立たないように、必ず決勝の舞台で、次は必ず(表彰台の)一番上に立てるように。全てしっかり準備して、次の大会に臨みたいと思います」
けがを抱えていたことは最後まで明かさなかった。ただ、「自分に負けた」「(次は)全てしっかり準備して」という言葉に、調子を合わせられなかった無念さがにじんでいた。
清水にエースのバトンを渡す形になった宇佐美は現在、指導者として日本代表を支えている。今大会は、コーチとしては自身初めての海外遠征だった。苦しんでいる現エースについて話を聞いた。
「重圧とかもあると思うんですけど、力を抜いて、気負わずにやってもらったらいいかなと思います。結構、一生懸命な性格だと思うので」
「やっぱり自分が一番何をしたいか」
直接指導する立場ではない宇佐美コーチの目にも、余計な力みが出ていることが分かっているようだった。
あの時、あなたがパリの観客を味方につけたような演武をするため、清水に足りない物は何か。
「観衆を味方につけるためにというよりも、自分がどう演武したいか。信じられる技術とか、正しい空手を追い求めていったら、自然とそういう演武ができると思うんですけど……。
結果がついて来るためには、やっぱり自分が一番何をしたいか。これをしたいというのを出していけば、自然とそうなるのかなって。自分が納得いくことができたらいいんじゃないですかね」
今後、五輪までにサンチェスと対戦できる機会は数回しかない。それまでに体調を整え、課題を克服することが何よりも大事になる。
現役時代で一番の思い出に残る大会は何かと聞くと、「やっぱりパリ大会ですね」と宇佐美コーチ。柔らかい笑顔とともに、想定していた答えが返ってきた。
いつか現役を退き、同じような質問を受けた時、清水は「東京五輪の決勝」と笑顔で言えているだろうか。五輪本番まで、残り数カ月。運命の日は、すぐそこまで迫っている。