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空手・清水希容が2020初戦で敗北。
苦しむエースに、前エースの言葉。
posted2020/02/01 19:00
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph by
Getty Images
話は少し前にさかのぼる。
2012年11月。フランス最大級の屋内競技場として知られるパリのベルシー体育館(現アコーホテルズ・アリーナ)で行われた空手の世界選手権、女子形決勝。大観衆の前に現れたのは、宇佐美里香とフランス出身のサンディ・スコルド。
先に演武したスコルドは地元開催の重圧からか、決めの姿勢で右足が動くまさかのミスを犯し、会場がざわついた。演武が終わり、宇佐美と入れ替わった。
最初の突きを打つ。スピード感や切れがスコルドとは比べものにならない。開始から5秒ほどで、早くも客席からは拍手が出始めた。それは時間が経つごとに会場全体に広がっていく。終盤でバッと飛び上がる見せ場では、割れんばかりの大歓声。演武を終えて一礼すると、スタンディングオベーションが起こった。
動画は1000万回以上再生された。
取材していた私は、あっけにとられた。
この光景の異常さは、フランス国内のスポーツイベントを観戦した者なら理解できるかもしれない。フランス人は、とにかく自国選手を熱狂的に応援する。テニス男子の錦織圭も、全仏オープンで地元選手と対戦する際は観客が「クレイジーになる」と表現したことがあった。そんな一癖ある観客たちの心を、わずか2分半ほどの演武でわしづかみにしたのだ。
最後は審判の判定。結果は誰もが予想した通り、宇佐美が巻く帯と同じ青色の旗5本がきれいに上がった。
世界空手連盟(WKF)の公式YouTubeチャンネルで視聴できる宇佐美のこの演武は、数あるWKF公式動画の中でも2番目に多い1000万回以上が再生されている。まだ見たことがない方は、スコルドの分を含めてぜひこの機会に視聴していただきたい。
空手史に残る名場面を置き土産に、宇佐美は翌年に引退。その後継者が今のエース、清水希容である。名前は「きよう」と読む。