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ローマ、米大富豪による買収迫る?
それでもロマニスタには不安なし。
posted2020/01/21 11:40
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Getty Images
ASローマが“売り”に出ている。
昨年末、クラブが発表した声明によると、ダン・フリードキンなる米国の大富豪との間で売却交渉が進んでいるという。
驚くのは、ローマにつけられた7億9000万ユーロ(約965億円)という巨大な評価額だ。買収が成立すれば、セリエAクラブの買収額として史上最高記録となる可能性が高い。
だが、僕はここで首をかしげてしまう。
12年間、何のタイトルも獲っていないクラブに、なぜこれだけの高値がつくのだろう?
現会長ジェイムズ・パロッタがローマの経営に参画したのは、2011年春のことだ。後に会長となるトーマス・ディベネデットを筆頭とする4人の投資家グループの1人として、経営陣の一角に名を連ねた。
当時のクラブ買収額は、1億1000万ユーロ(約134億円)だった。
パロッタは翌'12年の夏、第23代ローマ会長になった。すぐにフロリダで会見を開き、クラブ自前の新スタジアム建設計画をアピールしたかと思えば、毎年のようにアメリカでサマーキャンプを行い、国際トーナメントにも出場することで、巨大な北米市場におけるクラブの知名度向上を推し進めてきた。
今が売り時? 買い手はどこに?
昨年のクリスマス前、パロッタ会長は自宅のあるボストンからメッセージを寄せている。
「私はこれまでずっとローマのために最も良かれと信ずることをやってきたし、クラブの次なる将来に向けても必ずやそうするだろう」
極めて冷静な投資家は“今が売り時”と判断したらしい。
買収へ乗り気になっているダン・フリードキンは、テキサスを本拠に米西部5州の独占販売権を持つ“USAトヨタのセールスキング”だ。
150以上のディーラーを抱える自動車販売業の他にも、数カ国にまたがる高級ホテルの経営や観光レジャー、映画産業も手がける総合実業家で、経済誌『フォーブス』によれば個人資産は43億ドル。世界で504番目の金持ちらしい。
フリードキン一家の弁護士グループは本交渉に向けて、ローマ市内の一等地にある高級ホテルを居城として、関連12社を含むローマの財務状況をつぶさに精査しているところだ。完全買収か、共同経営参画止まりか、はたまた破談か――。彼らは、今月末にも何らかの結論を出すだろう。