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田中恒成、キャリア最高のKO勝利。
「俺だって現役、尚弥さんを超えたい」
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2020/01/07 11:30
15戦15勝9KO。戦績は輝かしいが、田中恒成からは飢餓感が溢れている。それは前を走る井上尚弥を追うゆえだろう。
「練習で強いのはもう分かったから」
この試合前まで14戦全勝(8KO)無敗。日本最速のプロ5戦目で世界王者となり、井上と並ぶ日本最速タイ記録の8戦目で世界2階級制覇。3階級目はあのワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)と同じ12戦目で世界最速だった。
これ以上ない戦績と肩書き。だが、リング上で肩書き以上のインパクトを残せずにいた。
昨年8月。2度目の防衛戦となるジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)戦は7回TKO勝ち。とはいえ、内容には不満が残った。4回にダウンを奪われるなど体が重い。左が出ない。足も動かない。明らかな調整失敗だった。
試合後、デビュー以来ずっと間近で見てきた関係者から2人きりの食事に誘われ、諭すように言われた。
「練習で強いのはもう分かったから。いつまでもあんな感じだと、そういう選手になっちゃうよ」
田中の潜在能力を知っているからこその叱咤激励だった。
王者は「ですよね……」と頷くしかなかった。
「まあ、自分でもあのままじゃ……」
田中自身も、練習と試合とのギャップに歯がゆさを感じていた。減量を経て試合当日を迎えると、ウオーミングアップの段階から、まるで自分ではないような動きになっている。畑中清詞会長をはじめ、周囲がそう思っているのも分かっている。誰もが内心思っていることを直接口に出して言われた。
「まあ、自分でもあのままじゃ、正直、世界チャンピオンの中でも鳴かず飛ばず(の存在)になるのも分かっていた。そういう実力の試合しかしていないし。それが減量、調整の問題ならば、何年同じことをやってきたのかとなる。めちゃくちゃ失敗したのが前回。あらためて、このままではダメだなと思った」
ここで変わらないといけない。もう自分も周囲も裏切りたくない。危機感が募ってきた。