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田中恒成、キャリア最高のKO勝利。
「俺だって現役、尚弥さんを超えたい」
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2020/01/07 11:30
15戦15勝9KO。戦績は輝かしいが、田中恒成からは飢餓感が溢れている。それは前を走る井上尚弥を追うゆえだろう。
井上尚弥を追い、いつか超えるために。
昨年10月中旬。田中を取材したとき、尚弥、拓真の井上兄弟について話を聞いた。高校時代、拓真とは同学年同階級のライバルで、通算3勝2敗。兄の亮明は同学年同階級で君臨する尚弥をずっと追いかけてきた。田中家と井上家には、目に見えない糸が絡み合っている。
「拓真は俺にとって特別な選手、特別な刺激を与えてくれる存在です。でも、一番刺激を受けるのは誰かと言ったら尚弥さん。だって一番強い選手だから」
そう言うと、一息ついて、言葉に力を込めた。
「常に井上家が田中家の一歩先を行っている。だけど、俺だって現役でやっている以上、一番になりたい。『俺は俺で頑張ります』なんて言ったら終わりでしょ。尚弥さんを超えたい。そういう思いしかない」
現状、差があるのは承知の上。だが、あの日、田中の言葉にはボクサーとしての誇り、意地、熱い思いがほとばしっていた。決意のようなものが感じられた。
井上とドネアの激戦を目の当たりにして。
大晦日の試合から一夜明けた元日。どうしても田中に聞きたいことがあった。昨年11月、「一番刺激を受ける」という井上尚弥がノニト・ドネア(フィリピン)と激闘を繰り広げた。あの姿を見て、何を感じ、どう刺激を受けたのか。大晦日の試合にどう影響を与えたのか、と。
「尚弥さんはこれまでめちゃ早い回でKOばかりして『すげー』を与えてきた。それが判定になったら、『ああ、倒せなかったな』と、焦点がそこじゃなくて、感動になった。すごいなと思って。
『頑張っているな』とすごく見えたわけではないのに、なぜかそう感じたんです。強い人がね、こんなに頑張っているのに、もっと俺も頑張らないと。俺の中ではやっぱり特別ですよね」
試合を見た後、ツイッターにこうつぶやいた。
「俺も必死に闘わなきゃダメだ!!」