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フィギュア演技後の投げ込み禁止で
思い出す、無良崇人と一輪のバラ。

posted2019/12/30 20:00

 
フィギュア演技後の投げ込み禁止で思い出す、無良崇人と一輪のバラ。<Number Web> photograph by Yutaka Nagakubo/The Sports Nippon

2019年12月、トリノでのGPファイナル女子フリー。地元猟友会? もとい、フラワーガール・ボーイたちに捕獲された巨大クマ。

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長久保豊

長久保豊Yutaka Nagakubo

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Yutaka Nagakubo/The Sports Nippon

 フェンスを飛び越えた一輪の赤いバラがツーッと白いリンクを滑って行く。

 演技を終えたスケーターはそれに気がつくと右手で拾い上げ、左手で感情が溢れ出した顔を覆った。彼にとっては13度目の全日本、そして悲願の五輪出場がかかった大会だった。

 それまで2本入れていた4回転を1回にするという賭けに出た。それが吉と出たかはこの時点ではわからない。気迫あふれる演技に場内はスタンディングオベーション、赤いバラは彼の右手で誇らしげに揺れた。声援、拍手が鳴り止まない中を漂い、彼はリンクサイドの人々と抱擁を繰り返した。その姿を背に次の演技者がリンクに飛び出していく――。

 2017年の全日本フィギュアスケート選手権のカメラ席から見た1コマだ。白いリンク、深紅と黒の衣装に合わせたような赤いバラ、次の滑走者の青と黒の衣装。色の記憶が鮮明に残る大会だった。

プレゼント投げ込み禁止となって。

 リンクへのプレゼント投げ込み禁止が徹底された2019年の全日本選手権。ファンたちの反応は「競技進行がスムーズ」、「次の選手に影響を与えない」、「拍手や声援がプレゼントの代わりになることを知った」と概ね好評だ。

 確かに選手への感謝や労いの気持ちを伝えたいという1人1人の思いが、いつしか数や大きさを競ったり、奇をてらったりで最近は選手との時間と空間の共有を求めるイベント化してしまった感は否めない。

 羽生結弦選手へのプーさんシャワーばかりが例にあげられるが、トリノのGPファイナルではロシア女子選手の演技後にフラワーガール、ボーイが5人がかりでやっと外に出せた巨大クマも登場した。

 いったいどうやって会場まで持ち込んだのか、セキュリティーは? と話題になった。東西を問わずファンの熱意には敬服するが競技である以上、他の選手に不利や不安を抱かせるならば禁止はやむを得ない措置だろう。

【次ページ】 昭和のプロ野球の現場では……。

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