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“山の神”の名付け親は今――。
「お前かよ、って感じでしょう」

posted2020/01/01 11:50

 
“山の神”の名付け親は今――。「お前かよ、って感じでしょう」<Number Web> photograph by Wataru Sato

3年連続5区だった北村聡は、最終年度は希望して2区を走った。今年から日立製作所女子陸上部の監督を務める。

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雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

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Wataru Sato

 北村聡が歴史的なその事実に気がついたのは、大学を卒業してしばらく経ってからのことだった。

 箱根駅伝の関係者が集まる食事会に参加したとき、日本テレビのアナウンサーから言われた。

「そういえばアレって北村君が最初に言ったんだよね?」

「あ、そうでした?」

「そうだよ、そうだよ」

 やまのかみ【山の神】 箱根駅伝で山上りの5区を神のごときスピードで駆け上がり、チームを優勝に導くランナー。

 今ではファンのみならず、一般の人にまで浸透した感のあるフレーズである。大会の人気が高まっていく上で、世間が食いつきやすい重要なキャッチコピー的な役割も果たした。

「いま、山の神、ここに降臨! その名は今井正人!」

 特に知られているのは2007年大会の往路フィニッシュシーンの実況だろう。順大4年の今井正人がゴールする様子をアナウンサーがこう表現した。

 だが、“神”の命名者は別にいた。今井と同時期に日体大で箱根路を駆け、現在は日立女子陸上競技部の監督を務める北村聡である。

「たぶん箱根駅伝の関連番組(の取材)で言ったんですよ。2年生のレースが終わった後の番組じゃないかな。まだ大学生でイケイケだったので『いやぁ、今井さんマジで神』『神降臨してますよ』みたいな、おちゃらけたノリだったと思います。なるほど、神ねって話になって、次の年も『マジ、神降臨してっから、神倒そうぜ』みたいな感じで話してたんです」

「神」はただの思いつきだった。

 それまで箱根の5区で活躍した選手には「山男」「山の名人」「山のスペシャリスト」といった称号が与えられていた。どうして神だったのか。それは北村も覚えていない。おそらくただの思いつきだったからだ。

「なんでですかねえ。そのときふと、そういうフレーズが出てきたんでしょうね」

 今井はすでに2、3年時('05、'06年)に5区で別次元の走りを見せていたが、まだ特別な呼称はなかった。4年生で迎えた'07年、このレース中に「山の神」というフレーズが誕生する。

 4区から5区につなぐ小田原の中継所、北村と今井はほぼ同時に襷を受けた。横にぴたりと並び、食らいつく北村の思いをアナウンサーがこう代弁した。

「日体大の北村も『今回は今井と勝負したい』『5区には神がいる。その神と勝負したいんだ』というような表現をしていました。その神こそが今井を意味していました!」

【次ページ】 北村の快走をはるかに上回った今井。

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