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20歳のイチローが語る。
「打率3割9分でも凄いじゃないですか」
text by
山崎浩子Hiroko Yamasaki
photograph byKazuaki Nishiyama
posted2019/12/24 11:30
1994年、プロ3年目のイチローは5月から8月にかけて69試合連続出塁を記録し、最終的にはシーズン210安打を放ち、打率.385で首位打者を獲得した。
注目されるのは、「得意じゃない」。
突然、顔をクシャクシャにして笑い出した。
――元来、注目されるのは好きなんですか。
「こういうお仕事ですから、それはいいんじゃないですか。好きかどうかは分からないけど」
――注目されるのはいいことだけど、自分としては好きじゃないの?
「得意じゃない」
――でも、報道陣とも明るく接してますよね。それは使命感からですか。サービスだと思って、頑張らなきゃあって。
「うーん、そうしておきましょう」
――よくわかんないなあ(笑)。血液型は何型ですか。
「B型」
――アハハハハ。あのシラーッとした顔で歩いている姿を見てB型かなと思っていた。
「そんなんでわかるんですか」
――わかるんですよ。私もB型だから、Bは嗅ぎ分けられる(笑)。お父さんは厳しかったんですか。
「高校時代には、そう思ったかなあ」
――それはどういうことで?
「女性のことに関して。大変厳しかったです」
――交際するなっていうこと?
「認めてはくれなかった。大事な時期ということもありましたけど……。高校球児なんて、あんな爽やかにしてて、校歌、歌っていますけどね、実はとんでもないですよ。やりたい放題(笑)」
――だからお父さんは厳しかったわけだ。
「厳しい。ぼくには、あんまり言わなかったんですけどねえ」
――じゃあ、だれに言ってたの?
「うーん、だから、相手の方に」
――お父さんがバリアーになってたのね。
「『お前のとこは甘いだろう』ってよく言われますけど、とォんでもないです。人は見かけによりません」
オリックス入団1年目にコーチと対立。
オリックス入団1年目の秋のキャンプから、彼はあるコーチと意見が対立した。
「バッティングフォームについてでした。初めのうちは、言うこと聞かなきゃまずいなと思って言われるままにしたんですけど。でも、コーチの言う通りにするとぼくの特徴や長所が消されてしまうことを、その時点で感じていましたから。それで聞かずに自分の形でシーズンに入ったんです。
で、ある日、ぼくに、そのコーチが言うんです。『お前は、おれの言うことを聞くのか聞かないのか、ここではっきりしろ』って。『じゃ、もうぼくは聞きませんから。自分のやり方でやらせてもらいます』って返したんです。
コーチって毎年替わる可能性があるわけで、それに合わせて選手がやっていたら、毎年毎年変えられちゃって、自分の形を確立できないですからね。だから自分の技術を持った上で、そのつけ足しという形の指導なら構いませんが、ガラッと変えるとなると、ぼくにはとても受け入れられません」
左打者である彼は、打つ時に右足を左軸足にクロスさせ、まるで時計の振り子のようにブラーンと足を振る。ブルペンで相手投手の投げる姿、投球練習を見て、それぞれの投手に合わせて足を上げるタイミングをはかる。ピッチャーが投げる前に、打つ準備ができているこの打法は、ゆっくり球が見られるのだと彼は言う。