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20歳のイチローが語る。
「打率3割9分でも凄いじゃないですか」

posted2019/12/24 11:30

 
20歳のイチローが語る。「打率3割9分でも凄いじゃないですか」<Number Web> photograph by Kazuaki Nishiyama

1994年、プロ3年目のイチローは5月から8月にかけて69試合連続出塁を記録し、最終的にはシーズン210安打を放ち、打率.385で首位打者を獲得した。

text by

山崎浩子

山崎浩子Hiroko Yamasaki

PROFILE

photograph by

Kazuaki Nishiyama

今年3月に現役を引退したイチローが、Numberに初登場したのがNumber345号(1994年7月21日発売)だった。以来、25年にわたってNumberはイチローのインタビューや記事を掲載し、このたび、その集大成となるNumberPLUS「永久保存版 イチローのすべて」が発売された。
そこに収録された貴重な「ファーストインタビュー」を今回、特別に公開! 史上初の打率4割とシーズン200安打を期待された20歳のイチローの当時の肉声をじっくりご堪能ください。

 イチロー。本名、鈴木一朗。

 プロ野球オリックス・ブルーウェーブの外野手として、今季60試合目にして100安打。63試合目で打率を4割台に乗せた20歳の若武者は、今や“時の人”となった。

 イチローが動けば、報道陣が動く。

 メディアには連日“イチロー”の文字が躍る。彼の一挙手一投足は、彼自身のものではなく、マスコミのものになったかのよう。

 なんでも新聞や雑誌によれば、イチローはスポーツ少年団の野球部の監督でもあった父親と、漫画の『巨人の星』を地でいく猛練習を幼い頃から続けてきた。勉学にも力を入れ、成績優秀。

 高校(愛工大名電)時代の野球部監督・中村豪さんは、彼のことをその並外れた才能に敬意を表して「宇宙人」と呼び、彼は自他ともに認める「天才」だったという。趣味は盆栽だそうだ。

 天才にして盆栽――。

 メディアから伝わるイメージは、クールな優等生。ただ、ちょっと盆栽が気になる。

 私は、オリックスの本拠地、グリーンスタジアム神戸へと出掛けた。

 私の前をイチローくんが通り過ぎていく。グラウンドの芝の上は、ゆうに40度を越えているが、彼は帽子もかぶらず、直射日光をそのまま浴びながら、練習をしている。

 イチローいるところ、カメラマンあり。いつでもどこでもレンズが彼を狙っている。

 なのに、当の本人は、そんな視線をものともせず、終始リラックスして練習をこなしている。時折、ヘラヘラと笑い、飄々と歩く。周りの空気と彼のいる空間は、交わるでもなく、離れるでもなく、柳に風か、どこ吹く風か、実に自然な空気の流れの中に彼はいた。

「だれが自分で天才だと思いますか」

――お父さんと二人三脚で、ずーっと練習してきたっていうのは本当ですか。

「はい、ぼくが好きでやってた」

――お父さんに「野球を教えてほしい。どんなことでもやるから」と頼み込んだとか。 

「そんなことは言っていないと思います」

――言っていない? あ、そう。じゃあ、自然にやろうかって感じだったの。

「やるからには毎日やる。そのことは約束しました。毎日の練習を始めたのが小学校3年生の時。嫌な日もありましたけど日課でしたね」

――その頃に、お父さんから一番注意されていたことや、指摘されていた重要なポイントはなんですか。

「素人の言うことですから『脇を締めろ』だとか、その程度のことです。好きなようにやっていました」

――じゃあ、『巨人の星』の星飛雄馬と一徹のような、ああいう関係ではないんですか。

「そんな訳ありません」

――大リーグボール養成ギプスみたいなのをつけるような、そんな感じでやってたのかと思ってた。

「あり得ない」

――高校の中村先生が「宇宙人」と呼んでたという話があるけど。

「呼んでいないですよ」

――周りからは天才だと言われていたと……。

「そんなこともない」

――自分で天才だと思ったことはない?

「だれが自分で天才だと思いますか。だって何も練習しなくて打てている訳ではありませんからね」

――盆栽が趣味だとか。

「だれが言ったの?」

――全然違うじゃないの(笑)。新聞にはそう書いてあったんだけどなぁ。盆栽眺めて精神統一しているのかと思っていた。

「ムチャクチャだなぁ」

――プロ入りする以前も生活が野球一色だったわけではないの?

「中学まではそこそこ勉強しました」

――そうですか。

「もちろん(と言って、少しふんぞり返り、すました顔をしている)」

――へーえ。

「……アハハハハハ」 

【次ページ】 注目されるのは、「得意じゃない」。

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