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20歳のイチローが語る。
「打率3割9分でも凄いじゃないですか」 

text by

山崎浩子

山崎浩子Hiroko Yamasaki

PROFILE

photograph byKazuaki Nishiyama

posted2019/12/24 11:30

20歳のイチローが語る。「打率3割9分でも凄いじゃないですか」<Number Web> photograph by Kazuaki Nishiyama

1994年、プロ3年目のイチローは5月から8月にかけて69試合連続出塁を記録し、最終的にはシーズン210安打を放ち、打率.385で首位打者を獲得した。

シーズン終了時の打率4割は可能か?

――打ち返す場所を狙ってから打つんですか。

「それはないです。基本は来た球に逆らわずに打つって感覚です。内に来たら引っ張る。真ん中に来ればセンター。外に来ればレフト、とまあ、そういう感じです」

 とはいえ彼は、対西武戦(1994年7月5日)で、二塁手が一塁側に、ショートが三塁側に極端に寄った“イチローシフト”をあざわらうかのように、広く開いたセンター方向へ狙い打ちとも思えるヒットを飛ばしていた。

――シーズン終了時の4割というのはできない数字ではないでしょ。

「絶対できないでしょう。とんでもない」

――と言いながら秘かに狙ってるとか。

「狙ってないです(笑)」

――だって、テッド・ウィリアムスのように大リーグでやったことがある人がいるんだからできないことはないですよね。

「いや、ぼくのいまの技術では無理でしょう」

――何が足りないんですか。

「まあ、すべてにおいて。目だとか、バットコントロール……。ムリだ」

――……。

「その、人の心の裏を読むような目はやめてください(笑)」

――4割は一応、無理だと言っておいて(笑)、シーズン200本安打は目指したい?

「それもぼくの口からは言っていないんです。いつの間にか、200本を目指すと書かれて。どこから話が出るのか知らないけど」

 ちなみに日本のプロ野球では、打率4割というのも前人未到の記録だが、1シーズン200本安打もいまだ達成されていない。

――じゃあ、これからはどういうふうにやっていきたいの。

「全試合フルで出ること。毎試合出るというのは入団3年目で初めてですから、実績がないんです。だから今年は実績づくりの年でしょうね」

――でも4割は、やっぱり嬉しいですよね。

「何が?」

――4割を打っている状態。

「打ってないですよ」(と少しスネる) 

「まだハタチですよ。こんな可愛い顔して」

 実はインタビューの前日(7月10日)、3打席ノーヒットで8試合目にして打率4割を切っていた。彼は記者から4割を切った心境を聞かれて、ムクれていたのだ。

「最初、担当記者との約束は『4割って数字を一回でもいいから、スコアボードに見せてくれ』というものだったんです。で、一回見せたら、今度は、『1試合終わった時点で最終的に4割をキープしてくれ、新聞に載せられるように頑張ってくれ』と言うから、じゃあ頑張りますってやったら、次は、シーズンで4割打ってくれなんて言いだして。約束はちゃんと果たしたのに、4割切ったらブーブー言って。

 3割9分でも凄いじゃないですか。まだハタチですよ。こんな可愛い顔して。ねえ」

――そうだよね。ほんとに可愛い顔して(笑)。でも記者の人の気持ちもわかりますよ。人の夢に一緒に乗っている感じかな。自分ではできないけど、イチローくんなら、やってくれるんじゃないかって。

「やってくれませんよ」

――4割台に初めて乗ったときも、別に何ともなかった?

「うん」

――日々過ぎる一日と同じ?

「うん」

――そーお?

「うん。喜ぶのはそのときだけ」

――あ、でも、一応は喜んだんだ。

「一瞬ね」

――どんな感じだった。

「あ、乗ったなと思った。まあ、約束果たしたなって感じです……。山崎さんは、やっぱり、人の心理を読むのが得意そうですねえ。ぼくは、そう感じましたよ、今日」

 メディアによって作られた“イチロー”はそこには居なかった。のらりくらりと質問をかわし、なかなか本音を言わないが、頑固で筋が一本通っている男である。それでいて優等生とは程遠いお茶目でひょうきんなイチローくん。帰り際、彼は車の中から、手でピストルを真似て私を狙い撃ちした。

 イチローのしっぽくらいはつかまえることができたのか、それとも私の方がつかまえられたのだろうか――。

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