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20歳のイチローが語る。
「打率3割9分でも凄いじゃないですか」
posted2019/12/24 11:30
text by
山崎浩子Hiroko Yamasaki
photograph by
Kazuaki Nishiyama
そこに収録された貴重な「ファーストインタビュー」を今回、特別に公開! 史上初の打率4割とシーズン200安打を期待された20歳のイチローの当時の肉声をじっくりご堪能ください。
イチロー。本名、鈴木一朗。
プロ野球オリックス・ブルーウェーブの外野手として、今季60試合目にして100安打。63試合目で打率を4割台に乗せた20歳の若武者は、今や“時の人”となった。
イチローが動けば、報道陣が動く。
メディアには連日“イチロー”の文字が躍る。彼の一挙手一投足は、彼自身のものではなく、マスコミのものになったかのよう。
なんでも新聞や雑誌によれば、イチローはスポーツ少年団の野球部の監督でもあった父親と、漫画の『巨人の星』を地でいく猛練習を幼い頃から続けてきた。勉学にも力を入れ、成績優秀。
高校(愛工大名電)時代の野球部監督・中村豪さんは、彼のことをその並外れた才能に敬意を表して「宇宙人」と呼び、彼は自他ともに認める「天才」だったという。趣味は盆栽だそうだ。
天才にして盆栽――。
メディアから伝わるイメージは、クールな優等生。ただ、ちょっと盆栽が気になる。
私は、オリックスの本拠地、グリーンスタジアム神戸へと出掛けた。
私の前をイチローくんが通り過ぎていく。グラウンドの芝の上は、ゆうに40度を越えているが、彼は帽子もかぶらず、直射日光をそのまま浴びながら、練習をしている。
イチローいるところ、カメラマンあり。いつでもどこでもレンズが彼を狙っている。
なのに、当の本人は、そんな視線をものともせず、終始リラックスして練習をこなしている。時折、ヘラヘラと笑い、飄々と歩く。周りの空気と彼のいる空間は、交わるでもなく、離れるでもなく、柳に風か、どこ吹く風か、実に自然な空気の流れの中に彼はいた。
「だれが自分で天才だと思いますか」
――お父さんと二人三脚で、ずーっと練習してきたっていうのは本当ですか。
「はい、ぼくが好きでやってた」
――お父さんに「野球を教えてほしい。どんなことでもやるから」と頼み込んだとか。
「そんなことは言っていないと思います」
――言っていない? あ、そう。じゃあ、自然にやろうかって感じだったの。
「やるからには毎日やる。そのことは約束しました。毎日の練習を始めたのが小学校3年生の時。嫌な日もありましたけど日課でしたね」
――その頃に、お父さんから一番注意されていたことや、指摘されていた重要なポイントはなんですか。
「素人の言うことですから『脇を締めろ』だとか、その程度のことです。好きなようにやっていました」
――じゃあ、『巨人の星』の星飛雄馬と一徹のような、ああいう関係ではないんですか。
「そんな訳ありません」
――大リーグボール養成ギプスみたいなのをつけるような、そんな感じでやってたのかと思ってた。
「あり得ない」
――高校の中村先生が「宇宙人」と呼んでたという話があるけど。
「呼んでいないですよ」
――周りからは天才だと言われていたと……。
「そんなこともない」
――自分で天才だと思ったことはない?
「だれが自分で天才だと思いますか。だって何も練習しなくて打てている訳ではありませんからね」
――盆栽が趣味だとか。
「だれが言ったの?」
――全然違うじゃないの(笑)。新聞にはそう書いてあったんだけどなぁ。盆栽眺めて精神統一しているのかと思っていた。
「ムチャクチャだなぁ」
――プロ入りする以前も生活が野球一色だったわけではないの?
「中学まではそこそこ勉強しました」
――そうですか。
「もちろん(と言って、少しふんぞり返り、すました顔をしている)」
――へーえ。
「……アハハハハハ」