松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
パラ水泳・成田真由美。多くの挫折を
経験しても「楽しい人生」と言える理由。
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byYuki Suenaga
posted2019/11/18 07:00
普段の活動からサポートをしている棟石理実さんと成田真由美(右)さん。多くの人との絆で彼女の活動は支えられている。
「今もきっとカイのところで輝いていると思います」
松岡「スポーツマンシップを感じますね。レースに勝った後、彼女が抱きついてくれたところから本当の意味での2人の物語が始まったのかなって」
成田「私が金メダルを1つ、カイの実家に置いてきたという話をすると、みんな驚くんですけど、迷いはなかったですね。今もきっとカイのところで輝いていると思います」
松岡「彼女がある意味、命を賭けてまでプールの中でやろうとしたこと。それがオリンピックとはまた違うと思うんですよ。勝ち負けだけではない、生きている証しのようなものを感じたんですけど、どう思いますか」
成田「私も今、結局、泳ぐことしかできないですからね。支えてくれる人たちにどんな恩返しができるかを考えても、泳ぐことでしか返せない。そんな水泳に出合わせてくれた、最初に声をかけてくれた仲間には本当に感謝だし、北京大会まで私を指導してくれた福元寿夫コーチと、リオ大会前から私を見てくれている堀越正之コーチにもありがとうって。確かに勝ち負けではないですね」
松岡「話を聞いていて、間違いなくポジティブ真由美ですね。これだけ挫折を経験しているアスリートもいないし、これだけ前向きに歩んでいるアスリートもいないと思う」
成田「そうですか。すごく嬉しいです」
「『大嫌いが大好きになるかもよ』と言いたい」
松岡「もしかすると読者の中にもいま挫折を感じていて、どうやったら前に行けるんだろうと悩んでいる人もいるかもしれない。真由美さんならどんなメッセージを送りますか」
成田「大嫌いなものが大好きに変わる可能性を、ひとは誰でも持っているということ。私も水泳が大嫌いだったのが、今は大好きなので。これから生きていく過程の中で、『ちょっとした切っ掛けで大嫌いが大好きになるかもよ』とは言いたいです」
松岡「でもその切っ掛けは、真由美さんのように前を向いていないと掴めないですね」
成田「そうかもしれないです。私もサクラスイミングに出会うまで6カ所断られ続けたけど、こうして縁があったのは諦めたくなくて動いた結果だから。そういう前向きな気持ちも大事だと思います」
松岡「だって、レースの後にひどい事故に遭って、そこからまた『よしやるぞ!』ってなかなか言えないですよ」
成田「その1回だけじゃない。4回追突されてますからね。ある意味、ついてるなって思います」
松岡「ついてないですよ! それを言うなら、『なんで私ばっかり』でしょ」
成田「そうですか? 4回目は東京駅に行く途中にタクシーに乗っていて後ろから追突されたんですけど、宝くじを買っていたら当たったんじゃないかと思ったくらい(笑)。それくらいの確率ですよね」
松岡「確かに僕は(追突事故に遭ったことは)1度もないです。でも、ほんと前向きですね。楽しいですか。真由美さんの人生は」
成田「めちゃくちゃ楽しいですよ。たとえ病気になっても、良い先生と出会えるし。そう思えば……」
松岡「今日はそれもクリアにしたいと思っていて、まだ中学生だった頃は病院で暴れたブラック真由美がいたわけじゃないですか。それが水泳と出合ってからは一度も出てこない。ブラックがゼロなんです。いったいどこに行ったんですか。消えちゃったんですか?」
成田「うーん、あまりマイナスには考えないですね、今は」
棟石「お母さんの存在も大きいんじゃないかな。とても優しくて、包容力のある方なんですけど、お母さんに心配をかけたくないんですよ、彼女は」