SCORE CARDBACK NUMBER
間違ったことは一度もやってない。
4度目の五輪に挑む羽根田の信念。
~カヌー界のスター、集大成に~
posted2019/11/18 08:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Kiichi Matsumoto
「現状維持は後退」との思いを胸にたゆまぬ進化に挑んできた男が、4度目の五輪出場を決めた。カヌースラロームの東京五輪日本代表選考会を兼ねた「NHK杯国際カヌースラローム競技大会」が、10月18日から20日まで東京都江戸川区の人工コースで行なわれ、男子カナディアンシングルでリオデジャネイロ五輪銅メダルの羽根田卓也(ミキハウス)が4大会連続の五輪代表に決まった。
「ししじゅうろくで16年。4回という数字は想像していなかった。それが東京。夢を見ているような不思議な気持ちがある」
7月に完成したばかりの東京五輪コースで他国のライバルより一足先に練習した“地の利”を生かした。流れを読んだ巧みなパドルさばきと素早いターンを披露して、決勝ではペナルティーなしの93.90点で3位。「自分では決勝より準決勝の方が感触がハマっていたけど、それでも決勝でまとめられたのは良かった」と表情を和らげた。
リオ五輪で日本カヌー界初のメダルを手にし、競技そのもののプレゼンスを上げた立役者だ。その後は頂点を目指すべく、パドルの長さや艇に座る位置などのセッティングを追求する日々。'17年世界選手権で7位になったのを最後にW杯でも決勝に進めない苦しみを味わったが、東京五輪コースでの初レースで2年ぶりの決勝進出を果たして、表彰台にも上がった。「僕は間違ったことを一度もやっていない」と自尊心をにじませる。
本番コースで漕げるアドバンテージ。
リオ五輪後に取り組んできたパワー強化の土台作りは完了した。「次はこのコースでタイムを出すことを追求していきたい」と、東京五輪までの強化方針も定まった。「最初から最後まで複雑な流れが入り組んでいて、読みづらいコース。実際に試合をして、細かい技術や高度な俊敏性が求められると感じたし、自分の特性に合っている」。今後は可能な限り本番コースで漕ぐ時間を取るつもりだ。
高校卒業後に単身でスロバキアに渡り、北京五輪14位、ロンドン五輪7位、そしてリオ五輪で3位になった。出る度に順位を上げてきた信念の人は、「自信が確信に変わった。リオ以上の結果を求めているし、求められているのも分かっている」と、静かな口調に強い決意を込めた。