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先輩の教えを胸に、コツコツと。
西武残留の十亀剣が誓う日本一。
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph byKyodo News
posted2019/11/15 11:30
西武残留を決めた十亀剣。2年連続で逃した日本シリーズ進出をかなえるべく、新たなスタートを切った。
館山の言葉は「すっと腑に落ちる」。
そんな十亀には尊敬する先輩がいる。今シーズンを最後に17年間の現役生活に幕を降ろした元ヤクルトの館山昌平である。
高校時代、「同じ右上手投げのピッチャーがいたので、チーム内で登板機会を増やすために」(十亀)と、上手投げからスリークウォーターにフォームを変えた十亀にとって、やはり野球人生の途中でフォーム改造を行った先輩は技術的にも手本となっていた。
同じ日本大出身という縁もあり、近年はともに自主トレーニングをする仲だった。「館山さんのおっしゃることはすべてすっと腑に落ちる」と語っていたが、そんな先輩が決意した引退には一抹の寂しさを感じたという。
「聞いたときは、やはり寂しかったですね。最後に、本拠地で投げる予定だというメールをいただいたんです。その日、ちょうど時間が取れそうだったので、試合を見に神宮に行ったんですよ」
入り口でチケットをちぎってもらい、スタンドに向かった。
頑なに払ったチケット代。
「中学生以来でしたね。チケットを買ってスタンドで試合を見たのは……。最初は館山さんや知り合いの方が『招待のパスを出そうか』と言ってくださったんですが、それは違うんじゃないかと思って……。いち観客として、館山さんのファンとして見に行きたかったんです」
実はこの試合では、館山ともう1人の功労者である畠山和洋の引退セレモニーも重なっていたため、チケットを買うことができなかった。仕方なく知人に頼んで用意してもらったのだが、十亀は頑なにチケット代を支払ったという。
「ちょうど台風が近づいていて、その日のうちに仙台に移動しなければいけない日でした。本当は試合後のセレモニーまで見たかったんですけど、館山さんの登板だけ見て、後ろ髪を引かれながら神宮をあとにしました」
プロ生活最後の投球をしっかりと目に焼き付けた。