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フェンシングの挑戦はまだ序章。
想像を超えた全日本選手権の光景。
posted2019/11/06 18:00
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
YUTAKA/AFLO SPORT
スタートは、13時30分。その15分ほど前からMCが会場を盛り上げ、次々来場する観客に向けたアナウンスが響く。
「スマートフォン、カメラでの写真、動画、撮影OKです。どんどん撮って、みなさんのカッコいい写真や動画をSNSで拡散して下さいね!」
昨年は東京グローブ座で男女決勝が開催された、フェンシング全日本選手権。今年は10月にリニューアルオープンしたばかりのLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)を舞台に、11月2、3日の両日に渡り、女子、男子の決勝戦が行われた。
競技会としてだけでなく、スポーツエンターテイメントとしても進化を続けるフェンシング。改革者としてその先頭に立つ、フェンシング協会会長・太田雄貴が言った。
「正直、意表を突き続けるのもタフではあります。でもこういったチャレンジができること自体を、幸せに思いながらやっていきたいです」
2008年に北京五輪で太田が日本フェンシング史上初のメダルを獲得し、競技普及のために、と練習時間を削ってもメディアに出て、4年後の2012年には団体戦の銀メダルを獲得した。
結果を出せば、世界は変わる。そう信じていた。
だが、日本最高峰の大会である全日本選手権の会場はガラガラで、会場中に響くのは、観客ではなく選手の声。
あの頃には想像すらしなかった。
同じ全日本選手権で、眩い舞台に立ち、光に照らされたファイナリストの姿。そして2日で3000人を超えるほどの観衆から大きな歓声と、拍手が送られる日が来ることなど。
「わかりにくさ」の解消。
より多くの人たちにフェンシングを見てもらう。
そのために克服すべき大きな課題が、「わかりにくさ」だ。スピーディーな剣の攻防は実際に見れば迫力が伝わるのだが、実際のやり取りを目で追うのは容易ではない。
その「わかりにくさ」を解決すべく、会長就任以後、改革に打ち出した太田が推奨したのが「フェンシング・ビジュアライズド」。
剣先の軌跡が赤と緑で可視化され、どう動き、互いがどんな攻防をして、どこを突いたから得点になったのか。昨年の全日本選手権では試行段階だったが、今大会では試合中のリプレイ時に大型ビジョンへ表示され、わずか数秒で繰り広げられる攻防の激しさが、よりわかりやすい形で目に見える。そして直後にまた次の攻防が繰り広げられると、今度はどんな形で、どちらに点が入るのか。その行方に、自ずと会場は沸く。