eスポーツは黒船となるかBACK NUMBER
世界最強の格闘ゲーマーはどんな人?
ボンちゃんが語る仕事論と結婚観。
text by
八木葱Negi Yagi
photograph byHirofumi Kamaya
posted2019/11/04 11:40
トークスキルを持ち合わせたプレイヤーが多い格闘ゲーム界においても、ボンちゃんは屈指のエンターテイナーである。
伸びるのは「負けても楽しめる人」。
それでも、ゲームへの情熱は加速する一方だった。本格的にゲームセンターに通い始めて半年も経たないうちに国内トップレベルのプレイヤーたちと勝ち負けするレベルに急成長する。
『ストリートファイター』において日本はアメリカをしのぐ超大国であり、世界ランキング上位も半分近くを日本人が占める状況である。そんな環境で、ボンちゃんは凄まじいスピードでトップ集団に追いついた。格闘ゲームが強くなる人の共通点を、彼はこう表現する。
「ゲームって面白いからやるじゃないですか。ただ、何を楽しいと思うかは人によって違う。勝てば楽しいのは当然だけど、負けてても楽しめる人が伸びやすいと思います。負け試合を見て何がダメだったのかを反省する人は強くなりやすい人だと思います。
僕は大会で負けた試合は絶対に見返します。何がうまくいかなかったか、何を食らったかが明白に残ってるので、負け試合って凄い財産なんですよ。負け試合は見たくないっていう若い子も多いんですけど、何言ってんのって(笑)。勝った試合なんかどうでもいいんですよ、負け試合を見ないと」
プロ野球の野村克也氏が座右の銘にしていたことでも有名な松浦静山の名言「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」を思い起こさせるような勝負観だが、それではまだボンちゃんが現在の位置にいる説明としては不十分である。
彼は『ストリートファイターV』でのEVOを優勝した2人の日本人のうちの1人であり、ポイントランキングでも世界ランキング1位を経験した数少ないプレイヤーである。セオリーでたどり着ける一流の先の、超一流の領域に踏み込んでいる。
「どんな状況でもレバーを後ろに」
そんなボンちゃんだけが持つストロングポイントについて尋ねると、少し考えた後にこう表現してくれた。
「他の人は待てないというか、焦っちゃう人が多いなとは思います。自分で思う長所は、全く焦らないこと。格闘ゲーム的に言えば、どんな状況でもレバーを後ろに入れられる。前に出れば自分の攻撃は当たるけど、リスクも上がる。ハイリスクハイリターンは決まると気持ちいいし観てても盛り上がるんですけど、仕事にしたいんだったらそのリスクは取れない。生活するってそういうことでしょ、って。
麻雀のスタイルも守備型だったし、元々性格的にそうなんだと思います。だからゲームでも、格下相手の取りこぼしは誰よりも少ないですね」