酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
金田正一vs.長嶋・王のドラマ性。
初対決は三振の山、でもその後は。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News
posted2019/10/09 11:15
国鉄から巨人へと加入した金田正一(中央)。ONという偉大な打者と対戦して、そのすごさを実感したからこそ移籍を決断した。
4連続三振、1球しか当たらず。
4月5日、後楽園球場での開幕戦、巨人−国鉄は「プロNo.1投手と大学No.1打者の対決」として注目されたのだ。球史に名高いその結果は、以下の通りである。
第1打席
空振り ストライク ボール 空振り
第2打席
ボール ボール ファウル ボール 空振り 空振り
第3打席
空振り 空振り 空振り
第4打席
ボール ボール ストライク ボール 空振り 空振り
長嶋は10回バットを振って、バットに当たったのは1球だけ。しかもその1球も止めたバットに当たったもの。長嶋としてみれば、まさにカスリもしない惨敗だった。振ったのはほとんどがカーブ(ドロップ)だったという。
なお金田は翌4月6日も8回から登板したが、また長嶋を三振に切って取っている。
長嶋の金田ショックはチーム全体に響いて、巨人は3連敗。金田は開幕戦と第2戦で2勝を挙げている。
1年目は打率.179と抑え込まれた。
その長嶋は開幕3戦目でプロ入り初安打を打っている。以後、徐々に成績を上げ、最終的には本塁打王と打点王の2冠、打率も2位。あと一歩で三冠王を獲得するところだった。こんなすごい新人は後にも先にもいない。
さらには29本塁打、37盗塁、打率.305で、あと1本ホームランが出ていたら新人でトリプルスリーという破天荒な記録になるところだった。長嶋はこの年、一塁踏み忘れでホームランを1本損している。以後、長嶋には二度とトリプルスリーのチャンスは巡ってこなかったから、この一塁踏み忘れはものすごい“チョンボ”だったことになる。
期待以上の活躍を見せた1年目の長嶋茂雄だったが、金田ショックは尾を引き、この年の対戦では28打数5安打1本塁打4打点、打率.179に終わっている。