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酒井高徳とヴィッセルの幸福な関係。
「僕が神戸へ来たときに比べると」
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byGetty Images
posted2019/10/01 11:30
酒井高徳のヴィッセル加入は両者にとって幸せな形になりそうだ。チームが機能すれば、個人能力の総和は極めて高い。
酒井宏樹に感じていた羨ましさ。
以前、酒井が語っていた言葉がある。
ドイツのハノーファーから、フランスのマルセイユへ移籍した酒井宏樹について話していたときのことだ。
「下位で苦しんでいたドイツ時代と違い、降格争いの心配もなく、マルセイユのレベルの高い選手たちのなかでプレーしたことで宏樹は非常に伸びたと思います。降格争いでは『負けられない』という戦いを強いられる。そういう状況だとリスクが小さいプレーしかできないし、成長に大事なチャレンジのプレーができない。自分の感覚で、やりたいプレーを磨くなんてできないから」
ドイツで残留争いに巻き込まれたチームでの現状は、自分自身が招いた結果でもある。それは十分に認識しながらも、急成長したライバルのことを羨ましいと思うのは自然な気持ちだと思う。
もちろん「人間として、選手として成長させてもらえた」というハンブルガーSVでのキャリアも「酒井高徳」という選手の個性や強みを磨いたが、「もっともっと上手くなりたい」という純粋な欲を満たしてはくれなかったのだろう。
やりたいプレーよりチームのために。
そして、新天地として選んだヴィッセル神戸には、イニエスタをはじめ高いレベルの選手が揃う。サッカー選手として「ワクワクする」という純粋な感情も芽生えたに違いない。
「正直に言うと、神戸では自分のやりたいプレーがどんどんできるかなって思っていたんです。でも実際チームに合流したとき、今までと同じように、まずはチームについて考えました。
チームにはどんな役割の選手が必要なのか、ボール回しのときは、どういうテンポが必要で、今は行くのか、落ち着かせるのか……。そんなふうにプレーしたら、チームにハマった。だから、ハンブルグ時代と同じようにチームを見ながらプレーしています。チームもいい感じに回っているし、自分自身の居心地も悪くないんです」
自分発信のプレーではなく、チームという組織の一員としてのプレー。そこに酒井高徳の強みがあるということなのだろう。自身のプレーがチームの勝利に繋がっているという結果は、酒井の成長のエンジンになるはずだ。