草茂みベースボールの道白しBACK NUMBER
大野雄大と与田剛監督の絆。
ノーヒットノーラン達成の裏側。
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byKyodo News
posted2019/09/29 09:00
史上81人目となるノーヒットノーランを達成した大野雄大。お立ち台では「信じられない気分」と答えながら、捕手やチームメイトに感謝を述べた。
ルールに従っただけだったが……。
投手陣全体のノックに入ろうとした大野を、当時の投手コーチが「おまえ誰? 入らなくていい」と言葉と仕草で追い返した。理由は数日前にメニューに組み込まれていたプール(球場からは離れた場所にある)でのトレーニングに、大野が来なかったからだった。翌日にコーチはペナルティとして「特守」を課そうとしたが、大野は拒否(ほかにもう1人いた投手は受けている)。
しかし、大野はコーチに反旗を翻そうとしたのではなく言い分があった。それは投球練習を行わなかった当日のプールトレーニングは免除されるというチームのルールに従っただけというものだ。
読んでおわかりのように、公衆の面前で大人が大人をしかり飛ばすような話ではない。
結局この件はどちらも処罰はされず、うやむやに終わった。しかし、当たり前だがしこりは残る。翌'18年に登板した6試合は、一軍での先発日に出場選手登録をしては翌日に二軍へとUターンする、野球界でいう「投げ抹消」の繰り返し。投げる本人にすれば結果を出しても出さなくても次のチャンスはないことがわかっており、これでモチベーションを保てという方が無理な話である。
サラリーマンは上司を選べない。
「俺は好き嫌いで起用したりしない」
プロアマ問わず、指導者は必ず口をそろえる。上司にも同じことがいえるのだが、上に立つ人間の評価は最終的には部下や選手の仕事や成績で決まる。ということは優秀な人材はもちろん、平凡な人材であってもモチベーションを下げて得るものなど1つもない。
「サラリーマンは上司を選べない」とはよく言われるが、スポーツ選手だって監督やコーチは選べない。
そんな大野に救世主が現れた。与田剛監督である。