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WBA世界王者に挑む34歳の久田哲也。
「一本歯下駄」特訓と娘への思い。 

text by

芹澤健介

芹澤健介Kensuke Serizawa

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photograph byKensuke Serizawa

posted2019/09/29 20:00

WBA世界王者に挑む34歳の久田哲也。「一本歯下駄」特訓と娘への思い。<Number Web> photograph by Kensuke Serizawa

左利きだが、右構えのオーソドックススタイルで戦う久田。

「やめようと思ったことも一度や二度じゃない」

 一方の挑戦者・久田は、現在34歳。「いつかは世界チャンピオンになる」と高校1年でボクシングを始めてから19年。プロデビューしてからはおよそ16年が経ち、46戦目にしてようやく世界戦に辿り着いた。戦績は45戦34勝(20KO)9敗2分。京口の3倍以上のキャリアとなるが、46戦目にして初の世界戦というのは、平成以降では“最も遅い世界挑戦”となる。

「正直、ボクシングをやめようと思ったことも一度や二度じゃない。30歳の頃は友人にも『もう諦めろ。チャンピオンは無理やろ』って言われて。でも、どうしても諦めきれなかった」

 25歳で結婚して、娘も生まれた。昼間は道頓堀のたこ焼き店でアルバイトをして、空き時間に練習をしながら、夜は堺のラウンジでボーイとして店に立った。将来が見えなかった。

4歳の娘の言葉に号泣。

「生活も不安定でしたし、ボクシングも中途半端でした。試合をしても、ドロー、ドロー、判定負け、みたいな感じで『俺には才能がないんかな。もう終わりかな』って。でも、ある日、4歳の娘に言われたんですよ。『ボクシングやめたいならやめてもいいけど、パパやったらチャンピオンになれる!』って。そんなん言われて、もう号泣ですよね」

「これで最後になるかもしれない」と臨んだ試合の最終ラウンドで、得意の左フックが決まった。

「ふっと肩の力が抜けたというか、勝ち方をつかんだ気がしました」

 久田の快進撃がそこからはじまった。破竹の勢いでKOの山を築き、一時は日本ランキングも圏外になりそうだったボクサーが、気付けば日本チャンピオンになっていた。連勝はさらに続き、5度防衛した時点で、世界を見据えてベルトは返上した。

 直近の4年間の戦績は負けなしの13連勝(9KO)。奇しくも王者・京口のプロ戦績と同じである。

 今年4月の段階では、主要団体のライトフライ級世界ランキングでWBAとWBOがそれぞれ1位、WBCが3位、IBFが9位という、挑戦者として誰にも文句を言わせない位置につけた。

【次ページ】 一本歯下駄で二重跳びもこなす。

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