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WBA世界王者に挑む34歳の久田哲也。
「一本歯下駄」特訓と娘への思い。
text by
芹澤健介Kensuke Serizawa
photograph byKensuke Serizawa
posted2019/09/29 20:00
左利きだが、右構えのオーソドックススタイルで戦う久田。
一本歯下駄で二重跳びもこなす。
久田は、自らをトレーニングオタクと言うだけあって、気になる方法があれば貪欲に取り入れる。
そのうちのひとつが一本歯下駄だ。スピードスケートの金メダリスト・小平奈緒選手なども行っている一本歯下駄のトレーニングは、アスリートの体幹とバランス力を鍛えるもの。
不安定な一本歯下駄を履いてロードワークをするだけでなく、縄跳びで二重跳びもこなす。7月には一本歯下駄で金剛山にも登った。
「トレーナーから最初に紹介されたときはまったく信じてなかったんですが、身体の入れ方というか、微妙な体重の乗せ方が変わりました。パンチが確実に速く、重くなりましたね」
去年、双子の娘が生まれた。
10月末には35歳になる。プロボクサーが引退する平均年齢は23歳だと言われているが、「この歳でまだ進化しています」と言う。
「実際、久田は30歳を超えてから強くなりました」というのは原田実雄会長(77)だ。
「去年、双子の娘が生まれて子どもが3人になって、守るものが増えたのも大きいと思う。京口選手とどちらもパワー系なので打ち合いになるでしょうが、いつも通りの自然体でいけば大丈夫」
そんな原田会長を久田は「父親みたい」と慕う。しかし、好成績を収めながら世界戦が決まるまで1年以上かかったときは、言い争いをしたこともあったという。
ボクシングに限らず、すべてのプロスポーツにおいて、試合のプロモーションなどは所属先の政治力や資金力が関係してくる。ハラダジムは中小規模のジムだ。現在、久田を除くと世界ランカーどころか日本ランカーもいない。
「正直、移籍を持ちかけられたこともあるんですが、何千回もここに通って、何万発もパンチを打って、それを受けてもらって……。もう家族みたいな感じなんでね。実の父親より会長のほうがよっぽど長く一緒にいますし(笑)」