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「異端」「変わり者」の男の銀色。
柔道・向翔一郎はなぜ泣いたのか。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKiyoshi Ota/Getty Images
posted2019/08/30 12:00
決勝戦、ノエル・ファントエントに僅かの油断で敗北した向翔一郎。ここまでの成績でも十分な功績と言えるが、本人はまったく納得していなかった。
「異端」「変わり者」との評価も。
来年の東京五輪を目標にするからこそ、代表争いを勝ち抜くため、ここで勝っておきたいという理由はもちろんある。
それだけではない。
向は日本の柔道界では「異端」「変わり者」と言われることがあるのだ。「破天荒」とまでの表現を耳にしたこともある。
その理由は、思い切りのよい……と言おうか、そもそもの言動、素行にある。
骨折を1週間で治してみせる???
例えば、今年7月のことだ。
国際大会で中足骨骨折の怪我を負ったが、「自分の回復力はふつうの人とは違うので、たぶん1カ月かかるところを自分は1週間で治します」
「今までも(骨折したことは)あったと思いますが、気づかなかったですね」
と笑った。
キックボクシングの動きを間合いを図る際に取り入れるなど独自のスタイルも築いてきた。
「あるまじき」行動でひんしゅくを買ったこともある。
日本大学4年生の夏、向は柔道部から退部を申し渡された。練習の点呼に遅れたのが直接の理由だったが、素行にも問題があった。寮からも追い出された。練習場所も失うことになったから、知り合いなどの手も借りて、さまざまな道場へ出稽古に赴いた。
その後、頭を下げて部に復帰したが、湧き起こったのは「自分は恵まれている、みんながいるからできるんだ。練習相手がいなければ柔道もできない」という思いだった。
そんな経験も重ねて迎えた大舞台だからこそ……向はなにがなんでも勝ちたかったのだ。