オリンピックへの道BACK NUMBER
“世界”と縁遠かった入江ゆきの逆襲。
攻めきるレスリングで掴む東京五輪。
posted2019/09/01 11:40
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
待ちに待ったときが近づいている――。
9月14日、レスリングの世界選手権がカザフスタンで開幕する。
各階級で行なわれた激しい代表争いを勝ち抜いた女子選手たちの中、初めての出場となる1人の中堅選手がいる。
50kg級の入江ゆきである。世界選手権期間中に、27歳の誕生日を迎える。ようやくつかんだ大舞台の切符だ。
入江は中学時代から全国大会で優勝するなど、早くから将来を嘱望される存在だった。にもかかわらず、大舞台にたどり着くまでの長い時間には、紆余曲折があった。
中学卒業後も、おおよそ順調に階段を上り、シニアの全国大会での表彰台に立ち、2012年には世界ジュニア選手権で優勝するなど、入江は実績を積み重ねていった。
ただし、オリンピックや世界選手権などの世界大会には、縁がなかった。
ライバルがひしめく女子軽量級。
まずは、入江が戦う女子の最軽量級は、熾烈を極めたことがあげられる。
階級の区分けが変更される前の48kg級には、2012年ロンドン五輪で金メダルを獲得した小原日登美がいた。金メダルという成績は無論のこと、その技術をはじめとして、女子レスリングの歴史に名前が刻まれる屈指の名選手である。
小原が第一線を退いたあとは、入江が名乗りを上げるチャンスだった。
だがそこに、新たに台頭した選手がいた。登坂絵莉だった。もともと入江は、登坂に対して、圧倒的な差といっていい対戦成績を誇っていた。なにしろ、登坂に対して無敗だったのだ。
ところが、ロンドン五輪後に行なわれた全日本選手権、翌年の全日本選抜選手権と、立て続けに登坂に敗れる。小原にとってかわり、名乗りを上げる好機を逃した。
対照的に、一気に台頭した登坂は2016年リオデジャネイロ五輪で金メダルを獲得する。