オリンピックへの道BACK NUMBER
「異端」「変わり者」の男の銀色。
柔道・向翔一郎はなぜ泣いたのか。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKiyoshi Ota/Getty Images
posted2019/08/30 12:00
決勝戦、ノエル・ファントエントに僅かの油断で敗北した向翔一郎。ここまでの成績でも十分な功績と言えるが、本人はまったく納得していなかった。
井上監督「課題だった『我慢』はできた」
「自分にむかつきます。2位は1回戦負けと同じ。これだけ悔しいのは初めて」
向は最後まで、悔しさをみなぎらせた。課題はたしかに残った。
「我慢が大事」と言うように、強烈な強さを発揮する試合がある一方、性格からか、勢いに乗りすぎて足を掬われることがある。
決勝で生まれたわずかな隙も、向のそうした面が影響していたかもしれない。ただ、壁が厚い90kg級で、初出場にして銀メダルを日本勢として8年ぶりに手にしたのは事実だ。向のポテンシャルもまた、試合で見せつけることはできていたのだ。
「来年、圧倒的な力をつけて、ここ(五輪会場の日本武道館)に戻ってきたいです」
新たに決意を固める向に、日本男子代表の井上康生監督が言葉を送る。
「課題だった『我慢』をして、自分の戦いができたことは次につながると思います。涙がひとまわりもふたまわりも、成長させてくれると思います」
そんな期待を寄せられる存在感を示した、世界選手権だった。