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大迫傑をよく知る後輩が語る、
なぜ、彼は強くなったのか。
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph byShota Matsumoto
posted2019/08/30 18:00
大迫傑は個人主義者である。それでも彼の大学時代の姿は、チームメイトたちに好意とともに記憶されていた。
箱根に興味はなくとも、仲間と一緒に。
大迫が箱根駅伝に興味がないのは変わらなかったが、キャプテンとしてチームの優勝については真剣に考えていたというのも印象的だった。
「箱根駅伝は当時から興味がないと言っていましたし、3年生の時には監督にも『本当に出たくないんですけど』って言っていたような気がします。ただ4年生の時は、箱根駅伝優勝を目標にしてやってきて、大学で競技をやめる同級生がいる中で、仲良く4年間を過ごしてきた選手たちの最後に対して、自分もちゃんと走らなきゃいけないという気持ちがあったようです。
本当にそれまでチーム状況を気にするということが一切なかったんです。他の大会でも、普通は自分が出なくても、他の選手の応援に行くんですけど、大迫さんは合宿をはめ込もうとしたり、行かなくて済むように色々な策を練っていましたから(笑)。それぐらい大学が勝つということにあまり価値を感じていませんでしたから、本当に大きな変化だったんです。
しかも、箱根駅伝優勝を目指す中で、けが人が増えてきたときに、大迫さんは自分はどの区間を走ってもいいから、他の選手をまずは考慮してほしいと監督に伝えていたらしいんです」(高橋)
とはいえ、面倒見が良かったわけではないと、またも2人が口を揃えていうのだから、これも大迫らしさだろう。
「基本、シャイというのもありますけど、練習に向かう態度とか、気持ちや思いを実はよく見ているんですよね。嫌われるだけならまだいいんですけど、ダメだと思うとその選手に一切コメントもしなくなる。本人もそこは分かっていたし、もう少し粘り強く対応しろと、同級生から突っ込まれてもいましたね(笑)」(高橋)
「人の名前を覚えるのは下手でしたね。同じ部屋だった後輩の名前も覚えてなくて。同じ部屋だったのはわかるんだけど、どっちがどっちかわからないって(笑)」(岡田)
中学時代の忘れられない不機嫌な顔。
大学時代は一緒に練習を積んだが、今では選手としての活動はしていない2人。その彼らから見て、なぜ大迫はここまで強くなれたのかを教えてもらった。
「大迫さんは真っ直ぐすぎる人ですね。決めたら曲げないというのがある」(岡田)
「競技に対してすごくストイックに向き合うところが、大迫さんが強い理由だと思います。大学に入ると色々魅力的なことが他にも出てくるじゃないですか。もちろん遊ぶこともありましたけど、ベースは競技に置き続けていました。中学の時にも都大会などで会うことがあったんですけど、中学の時は今以上に真面目で、本当に陸上一本みたいな感じでした。
当時は東京にも強い選手がいっぱいいて、大迫さんが勝てない選手もたくさんいたんですが、大迫さんの真面目さは際立っていた。例えば中学の頃って、上位入賞する選手ってだいたい決まっているんですよ。大会ごとに一緒になるから、自然と仲が良くなって、表彰式を待っている時とか、だいたいワイワイガヤガヤしているんですけど、大迫さんはそういうのにはあまり絡まないんです。特に負けた時は、すごく不機嫌そうな顔して1人で立っていて(笑)。あの負けず嫌いはすごいですよね。それは競技に限らず、ゲームでも、なんでもそうなんです」(高橋)
同じような実力で高校から大学へ進学してきた選手は他にもいた。けれども、卒業の時に大きく差がついていたのは、競技に向かう姿勢の積み重ねだと大迫は本でも語っている。
「僕らが90%の力でこなしていく練習を大迫さんは80%ぐらいの力で積んでいくんです。だけど最後、9割、10割まで追い込んでいくのがすごい上手いんです。上手に負荷をかけることができるから、怪我をしないで練習を継続することができる。
あとはすごくポジティブで、あまり後ろ向きな考え方はしない。精神的な強さというか、何事も前向きに捉えて挑戦し続ける姿勢というのが大きな差に繋がったんじゃないかと思います。アメリカに行きたいというのも、渡辺監督に伝えて、色々と動いてもらったり、その前向きに実現しようというパワーが本当にすごいんです」(高橋)