野球善哉BACK NUMBER
作新学院・捕手、配球に悔いなし。
小林誠司のように、満塁被弾を糧に。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/08/18 18:00
作新学院の捕手・立石翔斗(左)らが呆然とするなか、本塁に生還を果たす中京学院大中京・元謙太。8回裏に逆転満塁ホームランを放った。
「打者対ピッチャー」ではなく。
立石は勤勉だ。けがで戦列を離れていた時期があったこともプラスに働いているようだが、著名人の書籍に目を通すことで、配球論などを勉強してきたという。
「昨年の秋から冬くらいに、野村克也さんの本を読みました。林に勧められたんですけど、本を読んだ上で、実践を積んで、監督や部長先生と話しながら配球の勉強をしてきました。打者対ピッチャーではなく、打者対バッテリーなのだということを深く胸に刻みました」
6回を終えた時点で、林は4安打無失点。四球が出始めているころでもあったが、そのまま試合を締めることができていたら、立石はこの日の勝利の立役者のひとりになることができていただろう。
それくらい、インコース高めのストレートを意識させた配球は効いていた。
しかし、7回裏から形勢が逆転してしまった。
立石に、後悔も、涙もない。
「2回以降、僕ら野手が無得点に終わってしまったことが、この逆転を招いてしまったんだと思います。投手はいいボールを投げてくれたと思います」
自身の配球に対してはこんな思いを抱く。
「これまでインコースの高めに投げて、それを打ち取ってきたんで、それに対しては、後悔はないです。投手たちはいい球を投げてくれたし、相手が僕らを上回ったと思います」
立石は取材中、1度も涙を流すことはなかった。
腹のなかでは相当に悔しかったのだろうが、彼の中には確固たる配球論があったから、その中で出た結果に対して冷静に受け止められるのだろう。これは信念を持っていないとできない立ち居振る舞いだ。