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バド女子ダブルスの過酷な選考過程と、
フジカキ&タカマツの知られざる絆。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byShinya Mano/JMPA
posted2019/08/18 11:30
リオ五輪で金メダルを獲得したタカマツペア。日本女子バドミントンに新たな歴史を築いた2人だ。
ふたつのペアのラストマッチ。
「そう言われて、初めて肩の荷が下りたというか、今まで抱えていたものがスッと落ちたんです」(高橋)
高橋と松友は東京五輪へ、まだ誰も見たことのない景色を見にいこうと決めた。
一方、藤井は故郷・熊本の震災をきっかけに垣岩とペアを再結成し、2018年シーズンを限りに引退することを決めた。
そんなタイミングで、ふたつのペアのラストマッチが実現したのだった。
「私たちは予選からでしたが、本選に上がれば当たるだろうと、運命というか、通じるものがある気がしていました」(藤井)
師走近づく駒沢オリンピック公園が高揚感に包まれていた。最後のゲームが始まる。高橋と松友はシャトルを弾くたび、あることに気づいていった。
「もちろん勝負なんですけど、どこかでふたりになら負けてもいいと思っている自分がいました。他のペアには絶対負けられない。けど、このふたりになら……」(高橋)
高橋はリオの後、自分たちを縛っていたものが何か、見えた気がした。
忘れかけていたリオでの感覚。
一方、松友には忘れかけていた、あのリオでの感覚がよみがえっていた。
「試合をやっていて楽しかったんです。ああ、あの頃はやっぱり純粋に、藤井さんと垣岩さんを相手にこう決めたいとか、こういう展開で点を取りたいとか、怖れずに前に出て、勝負しにいっていたことを思い出しました。忘れていた大事なものを、思い出させてもらいました」(松友)
悔しくて目を背けたロンドンから、かつてない絶景を見たリオへと、自分たちをつれていってくれたものが何だったのか。ふたりの翼、その羽の一枚、一枚が何によってできていたのか。それがわかったのだ。
涙の理由はそこにあった。
「ありがとうございました。私たちはあともう少しだけ頑張ります――」
去りゆくふたりにそう告げて、おそらくかつてないほど過酷な東京の空へ、ふたたび羽ばたきを始めたのだった。
(Number977号『[未来へ続くメダルロード]藤井瑞希&垣岩令佳×高橋礼華&松友美佐紀「トップペアが紡いだ絆」』より