令和の野球探訪BACK NUMBER
奥川恭伸に敗れて浴びた大歓声。
甲子園は、旭川大高・能登の始発点。
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byKyodo News
posted2019/08/08 12:00
長い手足を生かしたフォームで投げ込む旭川大高・能登。優勝候補・星稜を1失点に抑える好投で甲子園を沸かせた。
「同じレベルの投手になりたい」
「人の多さやどよめきはこれまでの試合とは比べものになりませんでした。その中で、みんなで旭大高(きょくだいこう/通称)の野球ができた。素直に楽しかったです」
それでも一番多くを占めた感情が悔しさだったことは誰の目にも明らかだった。唯一涙を堪えようと必死になったのも奥川との投げ合いについて尋ねられた時だった。
「負けたくない気持ちで投げました」
そう、声を震わせたが、ここでも「とても楽しかったです」と言葉を添えた。
ドラフト1位競合も有力視される奥川の高い将来性を考えれば、能登にとって今回の投げ合いは一生語り草にできるだろう。だが、能登はそれを拒否する。
「まずは大学4年間を通して、彼と同じレベルの投手になりたい。そしてNPBや日本代表で活躍できる投手になりたいです」
甲子園での敗戦がスタートに。
自身の課題についても「奥川くんのようにストレートでももっと空振りを取れるようになりたいです」と具体的に語るなど、視線はその先を見る。
来春からは2012年秋に大学日本一に輝いた桐蔭横浜大に進学する予定だ。東明大貴(オリックス)ら高校時代に無名だった選手を数多くプロ野球界や強豪社会人に送り出している育成に定評のある大学で、その力をさらに伸ばすつもりだ。
再び奥川と投げ合う機会を得て、今度は大観衆から受ける大歓声を勝って味わいたい。高校野球の終わりとともに能登は明確な目標を得て、新たな一歩を甲子園から大きく踏み出した。