プレミアリーグの時間BACK NUMBER
英国で愛された“2m”FWクラウチ。
引退後も引く手数多なユーモアさ。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byUniphoto Press
posted2019/07/19 17:00
ストーク時代、“太くて小柄”なシャキリ(右)と喜びを分かち合うクラウチ。英国を沸かせた「ビッグプレイヤー」がスパイクを脱いだ。
ユーモア満載のSNSは70万人がフォロー。
彼の著書は単純に面白かった。クラウチが持つ自分を笑い者にできるユーモア感覚は、英国人の「メイト(友達)」を思わせる。以前テレビのトークショーで「サッカー選手になっていなかったら今頃?」との質問を受けた際、「バージン(童貞)」と答えたセンスは、それこそ「レジェンド(伝説)」と言える。
70万人近いフォロワーがいるツイッターはユーモア満載。ひけらかしはなし。肉体美を誇るクリスティアーノ・ロナウドを真似たマッスルポーズは、スポーツ選手としては薄い胸板をネタにしたジョーク。「夏休みは家族とのひと時」というキャプションとともに投稿されたシーズンオフの写真は、超高級リゾートや豪華クルーザーでくつろぐ姿ではなく、動物園でキリンに餌を与える自分という具合だ。
英語で「ビーンポール(beanpole)」と呼ばれる背高のっぽで、1度見たら忘れられないサッカー選手としてはユニークな体型も、人気の一部であることは間違いない。さすがにGKやDFの大男が珍しくないプレミアではキリンとは言われないが、ゴール前の人混みに立つクラウチは、英国南西部の農場で見かけることがある、羊の群れに混じったアルパカを連想させた。
このサッカー選手版アルパカ(失礼)は、細長い足を折り畳むようにしながらボールをコントロールし、前述したようにアクロバティックなゴールまで決めてみせる。そのうえ人懐こく、ユーモアを感じさせるとなれば、万人に好かれるのも当然だ。
「ボールを蹴りつけられる的」は勘弁。
当人としては、その長身が不本意な起用法を招くという悲劇もあったようだ。コラムを持つ『デイリー・メール』紙上でクラウチ本人が、「体力的に現役を続ける自信はあるが、ボールを蹴りつけられる的になるため投入される存在にはなりたくなかった」と、現役に別れを告げた本心を語っている。
とはいえ、最後の所属先となったバーンリーを含め、彼の高さを最大限に活用しようと試みたチームの戦い方を責めることもできない。ジャンプで競る以前から空中戦で有利な立場にあり、本人の好みが足元だとしても、高度なヘディング技術もあった。クラウチの記憶がヘディングでの得点シーンなのは、筆者だけではないだろう。