プレミアリーグの時間BACK NUMBER
英国で愛された“2m”FWクラウチ。
引退後も引く手数多なユーモアさ。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byUniphoto Press
posted2019/07/19 17:00
ストーク時代、“太くて小柄”なシャキリ(右)と喜びを分かち合うクラウチ。英国を沸かせた「ビッグプレイヤー」がスパイクを脱いだ。
愛された「庶民のプレミアリーガー」。
それでもクラウチは、輝かしい実績を残した名選手級に広く敬愛され、イングランドの人々に強烈な印象を残した。南岸部でライバル関係にあるポーツマスとサウサンプトンの両クラブに在籍しても「裏切り者」と呼ぶ者はいなかった。バーンリーではサブで6試合出場にとどまったが、「給料泥棒」とは言われなかった。これはやはり、にじみ出ている愛すべき人柄によるところが大きいのだろう。
22年前になるが、故ダイアナ元妃を「人民のプリンセス」と評したのは、当時のトニー・ブレア英国首相。その名言にならえば、クラウチは「庶民のプレミアリーガー」といったところだ。曲がりなりにもCLやW杯の大舞台でもプレーしながら、ピッチ外での言動はプレミアとはかけ離れた「普通の人」である。
ロイ・キーンに無視され高級車を売却。
そんなクラウチも、一度は富と名声の世界の人になりかけたことがあるらしい。それは20代前半、CL王者となったリバプール入りが実現した2005年当時のこと。
ビッグクラブ移籍をアストンマーティン購入で祝った経緯を、昨年出版した自伝の中で明かしている。マンチェスター市内をドライブ中、偶然にも信号待ちで横に並んだ車の運転席にはロイ・キーン(当時マンU)。リバプールの新FWが「プレミア同僚」気分でウィンクしたところ、汚らしい物でも見るかのような目線を浴びて走り去られたことで「勘違い」から目覚め、翌日に300万円ほどの売却損で車を手放したのだという。
私が1度だけ目撃したクラウチの車は、ルノーのメガーヌだった。西ロンドンにホームスタジアムを持つQPR時代のことだ。オープンカーではあったが、車種としては一般的。そのメガーヌでさえ「派手すぎる」との父親の意見を受け、一度は購入を諦めていたことが同書を読んで発覚した。