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安西幸輝が1年半で得た野心と愛情。
「鹿島のこと好きになっちゃった」
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byGetty Images
posted2019/07/10 18:00
安西幸輝は鹿島を背負ってポルトガルに飛ぶ。内田篤人のように、いつか故郷に錦を飾るために。
同ポジションの選手獲得を希望した理由。
「当時、(内田)篤人くんが鹿島に戻るかもしれないという話もあったので『是非、内田選手も獲得してください』とお願いしました(笑)。(西)大伍くんもいましたし、(山本)脩斗くんもいました。
でも、強いライバルを倒さないと代表に入るのは無理です。その点鹿島なら申し分ないし、代表入りという目標達成に鹿島ほど適したクラブはないと思うんです。だって、アントラーズのサイドバックってほとんどみんな代表だから」
鹿島入りを決めた理由について、かつてそう話していた。そして新加入の2018年シーズンは、リーグ戦やACLなど47試合に出場している。怪我人が続出するチームで、両サイドバック、両サイドハーフ、ボランチとさまざまなポジションで起用された。
J2時代以上の過密日程を負傷なく乗り越えたが、消化するだけで精いっぱいというのが正直なところだったのかもしれない。シーズン末には「身体よりも頭、メンタルが疲れました」と話している。
プロとなって初めてのポジション争いも経験した。負傷から復帰したベテランの控えに回る立場に、自分の未熟さを思い知らされた。
「ヴェルディ時代は、ほとんどずっとレギュラーでした。鹿島で初めてポジション争いを経験し、ポジションを獲られてしまった。ライバルの選手は、僕にはないもの、足りないものを持っている。これからそこを補っていこうと思ってました。
いろんなポジションで使ってもらってなかなか自分の色が出せないという悩みはありましたけど、そのおかげで守備面はよくなったと感じています。週に2試合出続けるというのも経験がなかったし、相手も初めての選手ばかりで当然苦労もしました。でも、想像以上の経験ができたのは、今となっては非常によかったです」
南米の選手の貪欲さに触れて。
昨シーズンの終盤は先発の座を明け渡したが、ACL王者に輝くチームにとってはメドの立つ「スーパーサブ」的存在として活躍。クラブW杯のピッチにも立った。移籍会見で、もっとも印象的な試合として安西が挙げたのも、クラブW杯でのリバープレート戦だった。
「レアル・マドリー戦にも出場しましたが、レアルよりもリバープレートのほうが衝撃を受けました。あの試合で、本気で自分を変えないといけないと思いました」
アルゼンチンの強豪に所属する20代前半の選手たちが発散していた貪欲さが、安西を刺激した。
「同世代の選手が多かったんですが、みんな眼の色が違った。ここで活躍して、ビッグクラブへ行くという意思がプレーに出ていた。3位決定戦だけど一切手を抜かない。チームのためにプレーするという気持ちだけでなく、そのうえで、自分の特長を見せるプレーをしていた。僕自身もそういうプレーをしないと上にはいけない」
安西は、日本代表入りだけではない、新たな目標を定めた。このエピソードは、アルゼンチンのボカ・ジュニオールに敗れて欧州行きを決意した長谷部誠を思い出させる。
「鹿島へ移籍するときにも『海外でプレーしたい』という気持ちはありました。でも、それはまだ漠然としていた。だけど、行きたいじゃなくて、行かなくちゃいけないと思うようになったんです」