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川井梨紗子が見せた敬意と執念。
吉田沙保里、伊調馨の壁を超えて。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byMiki Sano
posted2019/07/10 17:00
取材エリアでは涙を見せた川井梨紗子。伊調馨とのプレーオフを制し、東京五輪の座を懸けた戦いに挑む。
伊調に対する敬意と悔しさ。
一方の伊調はリオ五輪で4連覇を果たした後、一時競技から離れたが昨秋に復帰。2年間のブランクをものともしない凄みを発揮し、川井との頂点バトルを繰り広げた。
火花が散るようなプレーオフの末に決着はついた。
川井は伊調に対する敬意と、'14年以降、どうしても自分の中で折り合いをつけられなかった思いを率直な言葉で吐露した。
「私が小学生の頃に五輪の女子レスリングがスタートして、五輪を最大の舞台として見るようになってからずっといるのが馨さん。リオのときは馨さんに勝ちたいという思いで58キロ級でやっていたけど勝てなくて、階級を変更しました。そのときの悔しさは時間が経っても変わりません」
姉妹で東京五輪、そして金メダル。
一方で、プレーオフを制したことで新たな気持ちも湧いている。
「世界選手権に勝ったのはリオが終わった後。そういう(チャンピオンという)立場で(五輪を)目指したことがなかったので、リオで金メダルを獲りましたが、東京五輪は初めて五輪を目指しているような気持ちです」
伊調に勝つことに執念を燃やし続けた足かけ6年の闘いに区切りをつけた川井の今後のターゲットはシンプルだ。3位以内で東京五輪出場権を得られる9月の世界選手権で優勝して勢いをつけ、東京五輪では“自分本来の階級”である57kg級で金メダルを獲る。その目標に向かって突き進むのみである。
妹の友香子と姉妹で東京五輪に出ることや、姉妹で金メダルを獲るという夢への道も目の前に開けている。
「まだ東京五輪の代表になったわけじゃないので報われたわけではありません」
そう言いながら、川井は表情を引き締めた。曲がりくねった道を歩んだからこそより強くなったレスラーがそこにいた。