令和の野球探訪BACK NUMBER
熊本で根を張るドラフト候補投手。
2度続く苦難にも「運命は変えられる」。
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2019/06/29 10:00
最速149キロを誇る小川一平(東海大九州)は今年のドラフト候補の1人。高校時代は無名の存在だった。
予期せぬ不祥事、それでも前を向く小川。
今度はチームの不祥事だった。複数名の未成年部員による飲酒行為、および上級生による下級生への暴力行為が発覚した。
日本学生野球協会による対外試合禁止処分は2月13日からの1カ月間であったが、事態を重く見た大学側が、南部九州ブロック大会の熊本地区予選の辞退を決めた。すなわち、絶好のアピールの場となる全日本大学野球選手権への道も閉ざされたことになった。
辞退が決まった直後、当然、小川のモチベーションは大きく低下した。同期の4年生には就職活動などで練習を辞める選手もいたという。
「自分の中では野球を続けることしか考えていなかったので、すぐに取り戻しました。ネガティブになっても何も変わらないので」
自らに強く言い聞かせるように語った。
憧れは藤川球児、スカウトの評価も上々。
5月には社会人チームとのオープン戦を3試合行なった。筆者も取材に行った熊本ゴールデンラークス戦では、NPBの6球団、7人ものスカウトが訪れていた。
「後ろ(テイクバック)が柔らかく使えますし、ボールの角度が良いのも魅力」と、スカウトたちが話すなど、その注目度や評価は落ちていない。
小川自身もプロを志望し、憧れは藤川球児(阪神)のような力でねじ伏せるストッパーだ。
そして逆境を経ているからこそ、さらにたくましく成長をしようと心に決めている。
「グラウンドが無くなったり、公式戦に出られなかったり……。色々ありますけど、運がないと言ったらおしまい。環境的に恵まれてなくても自分の行動次第で運命は変えられると思っています」
悲運のエースで終わるつもりは毛頭ない。たとえ今は陽の目を見られずとも、そこで根を張り、いつの日か大輪の花を咲かせようとする気概は失っていない。