令和の野球探訪BACK NUMBER
熊本で根を張るドラフト候補投手。
2度続く苦難にも「運命は変えられる」。
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2019/06/29 10:00
最速149キロを誇る小川一平(東海大九州)は今年のドラフト候補の1人。高校時代は無名の存在だった。
野球どころじゃなかった避難生活。
しかし、入学直後に熊本地震が起きた。
阿蘇キャンパスにグラウンドと寮があったため大きな被害があり、野球部寮の向かいの学生寮では土砂崩れによる死者も出た。救援活動の補助も行なった部員たちはその後、避難生活を余儀なくされた。
小川は一時帰省し、渋谷で募金活動をしたが「同じ日本で起きたことなのに、なんでこんなに楽しく生きていけるんだろう」と、被災地との温度差を感じた。
チームもリーグ戦出場は困難な状態となり辞退。グラウンドは安全性が確保されず廃止となり、メインの練習場は熊本キャンパス内のソフトボールグラウンドとなった。さらにこの頃は腰も痛めていた。
一方でこうした逆境が思わぬ効果を生む。投球や走り込みができなかったため、体幹や下半身を重点的に鍛えることにした。そうすると、再び球速が増していき大学2年春には148キロを計測するまでになった。
守護神に成長、大学代表候補にも。
そしてチームの抑えを任されるようになると、震災からわずか1年で、11年ぶりとなる全日本大学野球選手権出場を決めた。さらにその初戦の天理大戦では4番手としてマウンドに上がると、最速146キロを計測するなど好投。一躍注目を浴び、2017年12月には侍ジャパン大学代表候補の強化合宿にも召集されるまでとなった。
3年時は春秋ともに全国大会出場はならず、9月には再び、腰を痛めた。だが今回の怪我は長引かず、最後の1年を万全の態勢で迎えるはずだった。
しかし、1年時に続きリーグ戦出場辞退に追い込まれる。