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サニブラウンも桐生も本気は決勝で。
“第3の男”も絶好調の激戦男子100m。
posted2019/06/28 11:50
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Nanae Suzuki
日本陸上選手権・準決勝、サニブラウン(フロリダ大)のタイムは10秒05。
しかも、最後は流してこのタイム。
6月28日夜8時30分、条件さえ整えば9秒台が出ることを予感させる走りだった。
レース後に行われるサニブラウンへの取材は、いつも興味深いものになる。
たった10秒ほどのことなのに、サニブラウンの説明は具体的で、10秒間に驚くほどのことが起きていることが分かる。準決勝を終えて、ミックスゾーンに現れてからの第一声は、
「いやあ、またスタート失敗しちゃって」
というものだった。
サニブラウンの本当の力はまだある。
これまでもスタートに課題を抱えているのは衆目の一致するところだったが、この日は極端に悪かった。特に予選ではかなり出遅れた。
「予選のスターターのタイミングが早すぎて……(苦笑)。コーチからしっかりと聞いてからスタートするように言われているんですが、準決勝でも“聞きすぎちゃって”、また遅れてしまいました」
今回の日本選手権は、スターターにとってなかなか難しい大会になっている。
会場となっている博多の森陸上競技場の近くには福岡空港があり、飛行機が飛来する音が時にスタートの邪魔になる。ピストルを鳴らすスターターも、たしかに神経質になるだろう。
納得いくスタートが切れなかったサニブラウンだが、中盤からの加速は圧倒的だった。
「ラストは何もしなくてもスピードに乗れたので」
この言葉は、温存している「ロケット」があることを示している。決勝では最終盤に「グイーン」と伸びを見せるかもしれない。われわれはまだ、サニブラウンの本当の力を目撃していない。