プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
長州力、45年のプロレス人生に終止符。
家族のもとに笑顔で帰還できた67歳。
posted2019/06/27 14:50
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
10カウントなんかいらない。
6月26日、後楽園ホール。長州力は最後の「長州力」のコールに右手を突き上げて、笑顔でリングから去った。
長州のプロレス人生の最後の試合は6人タッグマッチ。長州は越中詩郎、石井智宏と組んで、藤波辰爾、武藤敬司、真壁刀義組と戦った。長州は真壁に3発のリキ・ラリアットを繰り出したが、真壁の4発のキングコング・ニードロップを浴びて3カウントのフォールを許した。
「やり返してやろうと思ったけれど、できなかった」
長州は真壁を称えた。
長州はマイクを握ると「苦労を掛けたからな。最後だから」と客席にいた英子夫人をリングに呼んで抱きしめた。
長州は1998年1月4日に東京ドームで一度、引退している。20年以上も前のことだ。あの時は5人掛けという長州らしい選択だった。相手は、藤田和之、吉江豊、高岩竜一、飯塚高史、獣神サンダーライガーだった。4人目の飯塚にだけは負けたが、5人目のライガーをリキラリアットで倒して、長州はリングから去った。10カウントも聞いた。あのまま、リングに戻って来なければ、きれいな幕引きだった。
「ああ、あれで終わっていればね」と、それは長州自身も感じていたようだった。だが、長州はリングに戻ってきてしまった。
「無事に試合を終えるとほっとするんですよ」
2000年7月30日、横浜アリーナで大仁田厚と対戦した。禁断の有刺鉄線電流爆破デスマッチだった。長州は大仁田を抱え上げるとぼろきれのように有刺鉄線に向かって投げ捨てた。
こうして復帰はしたけれど、こんなに長く選手生活を続けるなんて思ってもみなかった。「もういいんじゃないか」と何度も自分に問うこともあったという。
リングに上がる回数は減った。でも、道場には毎日のように通って、体を動かしていた。レスラーである以上、トレーニングするのは当たり前のことだった。だが、体を動かしていないと「ある不安」が解消できない……というのも事実だったのだ。
「リングは怖いところだ」
どんなにアドレナリンが出ていても、その不安、怖さは長州にとって特別のものだったのだ。歳を重ねた分、怖さの感じ方が敏感になっていったのかもしれない。
「無事に試合を終えるとほっとするんですよ」
長州はしんみりと語っていた。そして、ついに白いリングシューズを脱ぐ決心をした。