猛牛のささやきBACK NUMBER
怪我で二桁、新人王を逃した左腕。
ドラ1田嶋大樹「野球、楽しいな」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2019/06/27 11:15
プロ2年目の今季は気持ちや表情だけでなく、投球フォームからも、いい意味で力が抜けたように見える。
「オレ、野球が好きなんだな」
田嶋は小学3年生で野球を始めたが、特別野球がやりたかったわけではなかった。両親に何かスポーツをやるよう勧められ、たまたま父がやっていた野球を選んだ。小学生時代は楽しくやっていたが、野球が楽しかったというよりも、仲のいい友達と一緒に過ごすことが楽しいという感覚で、他のスポーツでもよかった。
そして中学からはずっと「やらなきゃいけない野球をしていた」と田嶋は振り返る。
「運がよかったのか何なのかわからないんですけど、結果は出ていたんです。だからチームの中でエースナンバーをつけたり、主軸で回っていて、周りに期待されたり、いろんな責任というものがあった。その期待を裏切れないなというのがあって、続けていました。
『なんか違うな』と、野球をやっていることに対してしっくりきていなくて、辞めたいと思ったことも何度もある。でも辞めるのは、逃げたみたいで、負けた感じがして悔しい。負けず嫌いなんで、『絶対逃げない』と思って、それでズルズルときていました。楽しむということからは遠ざかっていて、もうずっと『今日も野球か』、『今日もやらないといけないな、野球』って感じでした。
でも昨年、怪我をして野球ができなくなってから、『あれ? なんかオレ、野球したいな』と思い始めた。今年に入ってボールを投げられるようになって、試合にも投げて、段階が上がっていく中で、『野球、楽しいな。オレ、野球が好きなんだな、投げるの好きなんだな、ピッチャー好きなんだな』と気づきました。辞めずにここまできてよかった。プロ2年目で、野球の楽しさに出会えました(笑)」
昨年から変化したメンタル。
昨年の前半は、勝ち星を順調に重ねながらも、「不安で眠れない。期待されてプロに入ってきて、即戦力とめちゃくちゃ言われましたから。それに、ずっと勝っていると、勝ち続けなきゃいけないという別のプレッシャーも出てくる」と明かしていた。
しかし今年は、「結果どうのこうのじゃなく、マウンドに上がっている時点でそりゃあもうありがたいことだから、あとは楽しむしかないでしょって感じです」と笑う。