猛牛のささやきBACK NUMBER
怪我で二桁、新人王を逃した左腕。
ドラ1田嶋大樹「野球、楽しいな」
posted2019/06/27 11:15
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Kyodo News
6月5日、横浜DeNA戦で約1年ぶりに一軍のマウンドに上がった22歳の田嶋大樹は、帽子のつばに手を当てて口元を隠しながら、何かをつぶやいた。
その後の試合でも、田嶋はマウンド上でしきりにつぶやく。そのつぶやきのテーマは2つ。「感謝」と「楽しむ」だ。
「また一軍のマウンドに上がらせてもらっていることに感謝しろよ」
「楽しまないと損だぞ」
ことあるごとにそう自分に言い聞かせている。それは怪我をして初めて感じたことだった。
新人王も期待されたプロ1年目。
昨シーズン、JR東日本からドラフト1位で入団した田嶋は、開幕から先発ローテーションに入った。左腕を鞭のようにしならせて最速153キロのストレートを投げこみ、スライダーなどキレのある変化球も駆使して白星を重ね、6月17日の登板で早くも6勝目を挙げた。このまま行けば二桁勝利、新人王も有力、と期待は膨らんだが、6月24日の登板を最後に、左肘痛のため登録抹消となった。
電気治療などで回復に努めたが、しばらくは出口の見えない真っ暗闇の状態で、「精神的にかなりしんどかった」と振り返る。そんな時に支えになったのが、トレーナーや、佐野日大高時代の野球部の同級生だった。同級生たちが栃木から大阪まで来て、話を聞いてくれたことは大きな力になった。
約1年ぶりの白星を手にした横浜DeNA戦、田嶋は何度も「感謝しかない」と口にした。
その日のヒーローインタビューで、田嶋は「野球を楽しむという基本に戻れた」とも語ったが、「戻った」というよりもむしろ「初めて」に近い感覚だった。