ビッグマッチ・インサイドBACK NUMBER
トーレス引退会見に見えた人柄。
仲間を信じ、ファンに愛されたFW。
text by
寺沢薫Kaoru Terasawa
photograph byGetty Images
posted2019/06/28 17:30
リバプールでジェラードとホットラインを築き上げたトーレス。当時の決定力とキュートさは鮮烈な印象を残した。
一緒に居残りシュート練習。
そう語ったトーレスに対してジェラードもまた、「トーレスこそチームのベストプレーヤーだ。彼が9番で僕が8番だからドレッシングルームでも隣同士だし、僕らは本当に気が合うんだ。その関係がピッチ上にも表れていると思う。彼とはいいコンビを組めているよ」と賛辞を返していたから、彼らは本当に相思相愛だったのだ。
当時の2人はよく全体練習の後に一緒に居残りでシュート練習をし、互いに技を磨き、親交を温めていたという。
ジェラードは、「ストップとスタートがはっきりしているテクニカルなリーガより、常にゲームが流れているプレミアリーグの方が彼には合っているんだよ」とも言っていた。
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流麗に動きながら、タイミングよく加速してゴールに向かうプレースタイルだったトーレスにとって、プレミアの、また当時ラファエル・ベニテス監督の下でカウンターサッカーをしていたリバプールの水は、この上なく合っていた。
ロナウドを抑えて一番好きな選手に。
2007年8月19日、本拠地アンフィールドでのデビュー戦となったチェルシー戦で、ジェラードのアシストを受けて瞬く間にDFを1人かわし、名手ペトル・チェフが守るゴールを落ち着いて陥れた初ゴールを皮切りに、トーレスは加入1年目からプレミアで24ゴール、公式戦通算で33ゴールを決めた。
文字通り、トーレスはアンフィールドのアイドルになった。2008年夏、1年目にゴールを量産した新エースのユニフォームは飛ぶように売れた。
次のシーズン開幕前にイングランドでリバプールのシャツを予約した人のおよそ3分の2が9番のシャツだったというから、相当なものだ。ジェラードという絶対的な存在がいた当時のリバプールで、これほどまでに生え抜きの英雄と人気を二分した選手は他にいなかった。
それどころか、トーレスはプレミアで最も人気がある選手だった。2008年にリーグの冠スポンサーだったバークレイズが実施した調査では、当時マンチェスター・ユナイテッドのエースだったクリスティアーノ・ロナウドや盟友ジェラードを抑えて、トーレスは「好きな選手」のナンバーワンに輝いている。