オリンピックPRESSBACK NUMBER
東京五輪前にエースが驚きの引退。
トランポリンを「みんなで盛り上げる」
posted2019/05/20 10:30
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
MATSUO.K/AFLO SPORT
2011年世界トランポリン競技選手権で銅メダルを獲得し、'12年ロンドン五輪4位、'16年リオデジャネイロ五輪6位の実績を残した男子トランポリンの伊藤正樹(東栄住宅)がこのほど現役を引退した。
全日本選手権で7度の優勝を誇り、日本のエースとして東京五輪を目指してきた実力者が、自身3度目の大舞台まであと1年あまりに迫った今、引退を決めたことは、多くの人々を驚かせた。
なぜ、このタイミングだったのか。決断の背景には、トランポリン競技の発展を願う切なる思いがある。
腰痛と戦い、自問自答の日々。
引退発表から約1カ月が過ぎた5月中旬、伊藤を取材した。5月11日に全日本トランポリン競技年齢別選手権(群馬県前橋市)で引退セレモニーが行なわれてから数日後。その表情はスッキリとしており、これからの活動に向けて意欲にあふれている様子だ。
まずは、引退を決意するに至った理由をあらためて聞いた。
「半分以上は腰の痛みです。治療もトレーニングもしたのですが、痛みが引かなかった。思っているような演技ができない、練習ができない。ここなのかな、と決断しました」
1988年に東京で生まれ、5歳でトランポリンを始めた伊藤は、中学を卒業すると競技が盛んな石川県金沢市へ行き、金沢学院大学在学中の'09年からナショナルチーム入り。'11年世界選手権では男子個人銅メダルに輝き、同年のワールドカップシリーズ個人総合優勝を飾った。
ところが、メダルを期待された'12年ロンドン五輪では惜しくも4位。金メダルを狙った'16年リオデジャネイロ五輪では直前に腰痛を発症したこともあって6位と、表彰台には届かなかった。
東京五輪を目指していたが近年は腰痛に悩まされることが増え、昨年は代表に選ばれていた世界選手権を欠場した。
「このままでは東京五輪には出られないと思いましたし、トランポリンを続けることはできると思うけど、仮に東京五輪に出られたとしてもそれで良いのか。そういう自問自答がありました」