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29歳の人気者“チケゾー”の今。
最高齢ダービー馬へ柴田政人の伝言。
posted2019/05/16 12:00
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
Kei Taniguchi
その劇的勝利の裏に滲んでいた、柴田が貫いた生き様とは――。
発売中のNumber978号「日本ダービー革命元年」では、「時代を変えた7つのダービー」という連続ノンフィクションを掲載。その1本が、ノンフィクションライター高川武将氏による『柴田政人「チケットによろしく」』だ。
柴田政人とウイニングチケット、1人と1頭の、運命に導かれたような軌跡を振り返るとともに、今春に競馬界から身を引いた男の胸中に迫っている。
NumberWebでは、作中では詳しく紹介でできなかった、ウイニングチケットの「現在」の様子をレポートする。
新千歳空港から車で走ること3時間弱。日高山脈を背に太平洋に面した自然豊かなまち、北海道・浦河町にようやく到着した。海岸線の道沿いから山側に左折し、さらに内陸部へと進んでいくと、次第に周囲の景色は青草が生え始めた牧場一色へと変わっていく。今回の目的地、うらかわ優駿ビレッジAERUはもう目の前だ。
浦河町は古くから競走馬を育ててきたことから「優駿のふるさと」と言われる。町内には約300の牧場があり、毎年数千頭のサラブレッドが競走馬として巣立っていく。通称サラブレッドロードと呼ばれる見渡す限りの大牧場地帯には、熱心なファンが足を運んでいる。
うらかわ優駿ビレッジAERUにも、毎年、あの名馬に一目会いたいと毎年全国から多くのファンが訪れるという。
彼らのお目当ての馬こそ、1993年の日本ダービーを制したウイニングチケットだ。
人間に換算すれば100歳の29歳。
11年間の種牡馬生活を引退し、うらかわ優駿ビレッジAERUで功労馬として余生を穏やかに過ごすチケットは、今年3月で29歳になった。馬の平均寿命はとうに超え、人間にすれば100歳の域に達している。
しかし、その馬体は「長老」と呼ぶには少し違和感がある。身体はきゅっと引き締まり、背中の落ち窪みもない。毛並はつやつや。担当する乗馬課の太田篤志マネージャーも「こんなに若々しい29歳は見たことがありません」と驚くほど若々しい。
午前7時すこし前。厩舎側のスペースに車を駐車すると、音に反応したチケットが、早速、馬房から顔をのぞかせてくれた。スタッフに導かれ、日々のルーティーンである放牧へと向かう。
実は撮影のため、チケットには厩舎から放牧地の入り口まで到着して、また、厩舎の方へと戻る……という動作を何度か繰り返してもらったのだが、嫌がることもなく、暴れることもなく、機嫌よく歩いてくれた。