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29歳の人気者“チケゾー”の今。
最高齢ダービー馬へ柴田政人の伝言。
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byKei Taniguchi
posted2019/05/16 12:00
「チケゾー」の愛称で親しまれている人気者は、来年3月に30歳の大台を迎える。
走り回り、寝転がり、よく食べる。
手綱を外して放牧地に放つと、待ってましたとばかりに、チケットはある行動を見せた。
まずは青草の上に寝転がって自身の体をなすりつけると、すくっと起き上がり、放牧地内を勢いよく走り回り始めた。その軽やかな動きは、競走馬時代を彷彿とさせるようだった。
「今日はいつもと少し勝手が違って、なかなか放牧してくれないからウズウズしていたんでしょうね(笑)。すごい勢いで走り出しました。でもこうした動きができることが元気な証拠なんですよ」
元気に走り回ることはもちろん、横たわっても自力で起き上がれなくなれば、数百キロもの体重が身体にのしかかり、大きな負担となる。29歳になった今も、草の上に寝転がってもこうした動きがスムーズにできるということは、健康ということだ。
また、年齢とともに痩せ細っていく馬もいるそうだが、チケットにはその兆候は見られない。毎日放牧中にはしっかりと青草を食べ、スタッフが厩舎で与える食事もしっかりとたいらげる。年齢を考慮して、歯や身体に負担がかからないよう少しほぐしたものを与えるそうだが、ニンジンもおいしそうに食べていた。見る限りは元気そのもの。
チケットの健康は、馬体そのものの強さに加えて、うらかわ優駿ビレッジAERUスタッフの徹底した健康管理の賜物なのだろう。
毎年訪れるファンも。
「高齢ではありますが、もっと長生きしてくれるでしょうし、ぜひ長生きしてほしいですね」(太田さん)
厩舎内に設置されている小さなギャラリーには、同施設のスタッフ手作りのアルバムや写真が数多く飾られている。また、そこに置かれていたノートには、日本全国から訪れた多くのチケットのファン、そして競馬ファンからの温かいメッセージで溢れていた。
「いつまでも、元気で、長生きしてね」
「また来年も来るからね」
あらためて、ダービーから20年以上経った今も人々の記憶に残り、愛されていることを実感する。